(いま、あの人から電話だったでしょ)
ともだちが胸ポケットからささやいた。
(なに会社まででてきてんだよ)
(すごいね。大御所と何話したの?)
(取り次いだだけだよ。ていうかどっから湧いたんだよ)
(おしえてよ。緊張した?文学史に名を刻むような人でしょ?)
(緊張するよ。でも取り次いだだけだから。それよりもいいかげん怪しいからどこかに行って下さい)
僕は胸ポケットに向かって腹話術並みに口を動かさないようにして話した。
(どんな感じ?生トークだよ、生トーク。ちびった?)
(ちびんないよ!つーか、ちびるって、、)
僕は席を立って、廊下に出て、階段を駆け下りてビルの外にでて、ポケットから粘土の小人をつまみだして、鼻先へ持ってきた。
「すみません、今日は何がお望みですか?」
「あ、ほんとに感想ききたかっただけ。でも外出ると暑いね。お、遠くに女子ウケのよさそうなお茶スポットが見える!」
「なんだ、たかりにきたの。しかも下調べ済みかよ。いいよ、もう昼休みだし。どうせメニューもきまってるんだろ?」
「お話が早いですねー。初夏摘みの北インド産が入ったらしいよ」
「そのエセ紅茶通ぶり、わかりませんから。」
「ノリ悪いな~」
でもちょっと嬉しかった。憧れの作家と取次ぎと言えど生トーク。
誰かになんでもいいから聞いてもらいたいタイミングだった。
このちっちゃい生き物おそるべし。