夫は明日から東京へ行く。
○○ホテルを予約するから一緒に行こうよと誘われたが断った。
夫の自由を邪魔したくない。
パッキングをしている横でアイス珈琲を飲みながらわたしはその様子を眺めていた。
新しいパンツをおろしている夫を見て、浮気なの?と聞いてみたりする。もちろん、そんなことは思っていないし、万一浮気だったとしても、わたしにバレなければよい。
結婚して20年が経ち、一人息子は家を出た。食事は一緒にとるが、その後はそれぞれが自室で仕事をして、自室のベッドで眠る。ほぼ家庭内別居とも言える。それでも子育てをしていたときには、息子のことでたくさん話し合うこともあった。わたしたちは好きなことや趣味は全く違うが、嫌いなこと、許せないことが一致しているので、結論が出るのが早い。
もちろん、特に仲がわるいわけではないし、互いに無関心というわけでもない。そして、今は夫のことが昔のように好きというわけでもないが、泣きながら電話をして以来、わたしは夫に執着している。
ひとりで行くの?
わたしがそう言うと、夫はパンツをたたむ手を止めて、一緒に行く?と聞いた。
行かない。
なんで?
仕事があるから。
それは残念。
さほど残念とも思っていなさそうだった。
ねえ、本当にひとりで行くの?
わたしは言った。
なに、どうしたの?
さみしい。
それほどさみしいとも思っていないが、わたしはそう言った。
じゃあ一緒に行く?
さっきからずっとこの繰り返しだ。
行かないでって言ったらどうする?
行って欲しくないの?
わたしは首を横にふった。
仕事だから行くけど。
夫はそう言った。
パッキング終わったらいちゃいちゃしたい。
最近はすきあらば、したい。と思っていて、実際そう言っている。できるかどうかは夫次第だが、子どもがいなくなり、夫自身も気を遣わなくてよい分積極的だった。
更年期のホルモンの分泌はおそろしい。人を変えてしまった。
すきとかあいしてるとか、思ってなくても言うのがよいと思う。むしろ、思ってないからこそ、言うほうがよい。相手を変えるのは難しいが、自分が変われば相手は案外簡単に変わる。
そうしなければ、今ごろは家を出ていただろう。それはそれでおもしろかったかもしれないが、今の夫との関係をわたしはわりと気に入っている。