<北朝鮮内部>遭難多発のイカ漁は死んでも保障なし 夫失い「未亡人」続々(写真3枚)

山形県の海岸に漂着した北朝鮮の漁船。人の姿はなかった。2017年12月に山形市民撮影

昨年11月以降、遭難して日本の沿岸に漂着する北朝鮮漁船が相次ぎ、遺体も数多く発見された。2018年1月15日までの漂着船は80超、遺体は33体に上る。北朝鮮の東海岸から出漁したイカ漁船であるが、漁民が遭難して死亡・不明になっても、残された家族には保障がない実態が分かった。昨年8月まで咸鏡北道道清津(チョンジン)市の水産事業所に勤めていて脱北した男性が証言した。(石丸次郎)

◆漁民は契約、3万円超の収入も


この男性が所属していたのは、清津市にある朝鮮人民軍の総政治局傘下の水産事業所のひとつで、イカ漁船約35隻が所属していたという。

男性によれば、事業所の所長は一定の「看板料」を払って、総政治局所属傘下の事業所として登録。民間の個人の船主と契約してイカ漁を外注する。船主は乗船する作業員を、条件を提示して募集する。ほとんどの場合、船主は船長を兼ねて共に出漁するという。


男性によれば、「5トン級の木船の場合、乗船する作業員は普通5人で7トン級は10人ほど。乗船する作業員一人当たり水揚げの7%程度を渡す約束でした。船や油、漁具は船主が準備します」という。


日本海のイカ漁は一度の出漁は二週間ほどで、たくさん獲れると、作業員一人当たり中国元で2~3000元(約3万4000~5万1000円)の収入になることもあるという。


イカ漁シーズンは概ね6-10月。船長も漁民も、稼ぎのために小さな木造船で繰り返し無理をして遠くに出漁するため、エンジン故障や悪天候で遭難する事故が多発する。

衛星写真が捉えた清津市の漁港。係留されている船の多くがイカ漁船だという。(グーグルアース)

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◆無線なし、燃料も制限…死んでも保障なし

「位置確認のGPSと韓国の天気予報を聞くためにこっそりラジオを持って出漁しますが、無線はありません。積み込む油の量には逃亡防止のために制限があります。帰還予定を二日過ぎると、家族たちは心配でいてもってもいられないのですが、一か月経っても戻って来ないと、もう、海で死んだもの考えてあきらめるのが普通です」


とこの男性は言う。清津市をはじめ、北朝鮮東海岸には、夫が出漁したまま戻らない家庭が多く、「寡婦村」と呼ばれているという。


親戚がイカ漁船に乗っている北朝鮮内部の取材協力者によれば、漂流しているところを他の船舶に救助されると、後に莫大な費用を請求されるため、自力で帰還しようとして遭難するケースもあるという。


下請けの漁民たちは出来高払いで、命の危険と引き換えに高収入を得られるが、安全は自己責任だとして、脱北者の男性は次のように述べた。


「漁で人が死んでも、水産事業所から遺族には何も保障されません。葬式をするぐらい。船主は大体が借金をして船や漁具を準備するので、船主の乗った船が戻って来ないと、金を貸した人は大損です」

海上保安庁の巡視船が排他的経済水域で操業する北朝鮮のイカ漁船に放水している。2017年10月撮影海上保安庁