トランプが監獄国家・北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定したワケ――評論家・江崎道朗

トランプ大統領の誕生をいち早く予見していた気鋭の評論家が、日本を取り巻く世界情勢の「変動」を即座に見抜き世に問う!


日刊SPAさまホームページより

何時間もほぼ無給で働く北朝鮮の労働者たち


 アメリカのトランプ大統領は11月20日、ホワイトハウスで記者団に対し、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定することを決めたと発表した。

 なぜ再指定したのか。その理由を、トランプ大統領は11月8日、韓国の国会での演説の中で詳しく説明している。北朝鮮を「監獄国家」と激しく非難、その実態についてこう言及したのだ(以下、読売新聞11月9日付朝刊から引用)。

《北朝鮮の労働者たちは、耐え難い状況下で、へとへとになりながら何時間もほぼ無給で働いている。最近、すべての労働者が70日間連続での労働を命じられた。休みたいなら金を払わなければならない。》

 かつて北朝鮮も「労働者の天国だ」と言われたことがあったが、実際はとんでもないブラック国家なのだ。

 国民もまた、劣悪な生活環境と飢えに苦しんでいる。

《北朝鮮の家族は、給排水もない家に暮らし、電気が来ている家は半分にも満たない。親たちは、息子や娘が強制労働に送られるのを免除してもらおうと教師に賄賂を贈る。1990年代には100万人以上が餓死した。今日も飢えによる死者が続いている。

 5歳未満の子供たちの約30%は、栄養失調による発育不良に苦しんでいる。北朝鮮政権は2012、13年に、その独裁者たちをたたえる記念碑や塔、像をこれまで以上に建造し、それに費やした費用は約2億ドルに上ったと見積もられる。これは、国民の生活改善に充てた予算の約半分に及ぶ。》

 一党独裁の共産主義国家である北朝鮮には労働組合を作る自由も言論の自由もない。このため、こうした人権弾圧がまかり通っているのだ。

 北朝鮮の飢餓を理由に食糧支援を主張する「人権団体」もあるが、いくら日本や韓国を含む西側諸国が北朝鮮に援助をしようと、その援助は国民に届くことはない。金正恩政権が続く限り、一部の特権階級以外は、飢餓に苦しむことになるからだ。その仕組みをトランプはこう説明する。

《北朝鮮の経済の貧弱な成果の分け前は、ゆがんだ体制に対する見かけの忠誠心を尺度に分配される。残忍な独裁政権は、平等な市民を尊重するのとはまったくかけ離れたやり方で、国家への忠誠心といういい加減な指標で国民を値踏みし、点数をつけ、ランク付けする。

 最高の忠誠心を持つと評価された者は首都平壌に住める可能性がある。最低の評価を受けた者は飢える。ちっぽけな違反行為によって、たとえば、捨ててあった新聞に掲載された独裁者の写真に誤って染みを付けただけで、何十年にもわたって家族全員の社会的な地位が地に落ちることになる。》

 金正恩「万歳」を叫ぶ政府幹部とその家族だけがまともな暮らしをすることができ、大部分は飢餓に苦しむ、凄まじい「差別国家」なのだ。


レイプ、拷問、処刑。9歳の子供も監獄に




 金正恩政権を批判したり、金正恩の写真をずさんに扱った人、キリスト教の信仰を持った人は容赦なく「強制収容所」に送られるのだ。しかも日本人を含む多くの外国人が、北朝鮮のスパイ活動のために拉致され、北朝鮮に拘束されている。

《北朝鮮では推定で約10万人が強制収容所で強制労働に従事させられ、日常的に拷問や飢餓、レイプ、殺人にさらされている。

 祖父が反逆罪に問われたために、ある9歳の男の子が10年間も監獄に入れられた事例が知られている。別の例では、ある生徒が金正恩(キムジョンウン)の伝記のほんの細かい一節を忘れただけで殴打された。

 兵士が外国人を拉致し、北朝鮮のスパイのための語学教師として従事させてきた。

 朝鮮戦争以前、キリスト教徒の拠点の一つだった地域では、キリスト教徒やほかの信仰を持つ人々は、今日、祈りをささげたり聖典を持っていたりしただけで、拘束され、拷問され、多くの場合、処刑されることさえある。》

 この金正恩政権は同時に、女性の人権も平気で踏みにじる国でもある。

《北朝鮮の女性は、民族的に劣等と見なされる赤ちゃんの中絶を強いられる。新生児は殺される。中国人の父親との間に生まれたある赤ちゃんは、バケツに入れて連れて行かれた。衛兵は、不純で生きる価値がないと言い放った。

 それなのに、中国は北朝鮮を支援する義務をなぜ感じるのだろうか。》

 これほどひどい「監獄国家」の北朝鮮を懸命に支えてきたのが、中国なのだ。訪中する日本の政治家は多いが、北朝鮮の人権侵害に加担する中国の責任を正面から追及する人が少ないのは本当に残念だ。




自由な朝鮮、アジアの平和のために

 こうした人権弾圧を阻止するためトランプ政権は今回、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定し、さらなる経済制裁を科そうとしているわけだ。

 トランプはこう続ける。

《すべての責任ある国家が力を合わせて、北朝鮮の野蛮な体制を孤立させ、拒絶しなければならない。いかなる支援も供給も行ってはならない。受け入れてはならない。中国とロシアを含めたすべての国に対して、国連安全保障理事会の決議を完全に履行するよう求める。北朝鮮政権との外交関係を見直し、すべての貿易と技術協力の関係を断ち切るよう求める。》

 経済制裁を主張しているが、トランプは話し合いを拒否しているわけではない。

《朝鮮半島を空から見ると、南はまぶしく光り輝く国で、北には真っ暗な闇が広がっているのが分かる。我々は、輝き、繁栄し、平和な未来を望んでいる。だが、北朝鮮にとってのより明るい道程については、北朝鮮の指導者が脅しをやめ、核計画を解体してはじめて我々は話し合う用意がある。》

 核開発を断念すれば、交渉する用意があると主張する。その目的は「自由な朝鮮」の実現だ。トランプは長い演説の最後をこう締めくくっている。

《我々はともに、自由な朝鮮、安全な(朝鮮)半島、家族の再会を強く望んでいる。南北が高速道路で結ばれ、親族が抱擁を交わし、核の悪夢が美しい平和への約束に取って代わることを夢見ている。

 その日が訪れるまで、我々は断固とした態度で警戒を続ける。北を注視し、朝鮮のすべての人々が自由に生きることができる日が来るよう祈るのだ。》

 アジアの平和と北朝鮮国民の自由のため、金正恩政権には断固とした態度で核計画の放棄を求めると主張しているのが、トランプなのだ。

 そのトランプの方針に日本はどう対応するのか、金正恩政権による人権弾圧や核開発をこのまま放置するのか、拉致被害者をいかに救出するか「監獄国家」北朝鮮の実態を踏まえた建設的な国会論戦を期待したい。