自己破産するシニアが増えている意外な原因
◆消費者金融では断られた
「消費者金融では借りられなかったのに、銀行は貸してくれました」
東京都内に暮らすAさん(58歳)は今春、ついに自己破産を申請しました。始まりは、10年ほど前にさかのぼります。クレジットカードによる買い物とキャッシングの借り入れがきっかけでした。
「当時は会社員として働き、収入も十分にあったので、多少返済額が多くなっても問題ないと思っていました」
Aさんの借金は約200万円。銀行残高が底をつき、返済が滞ると、今度は消費者金融から借りて返済に充てるようになりました。
借金は300万、400万円と積み重なり、ついに、消費者金融からも融資を断られてしまいます。消費者金融からの借り入れができなくなったAさんが、次に選んだのは銀行のカードローンでした。
気付けば、借り入れは銀行カードローン3行、信販系カードローン1社、消費者金融が4社の計8社から、総額約500万円に膨らんでいました。
そんな折、ストレス性障害を患ったことで、Aさんは仕事を辞めざるを得なくなりました。その後、再就職し、何とか自力での返済を試みたのですが、以前ほどの収入は得られません。間もなく返済不能となり、弁護士に相談し自己破産を決意しました。
Aさんは当時を振り返り、ぽつりとこぼしました。
「普通に働いていたのに、まさかこんなことになるなんて思いませんでした」
◆住宅ローンが重荷に
神奈川県内に住む会社員Bさん(52歳)は15年前、妻(49歳)と共同名義で住宅ローンを組み、家を購入しました。
過労がたたったBさんは、うつ病を患い、会社を休みがちになりました。収入が不安定になり、妻のパート代でやりくりしていましたが、それだけでは足りず、銀行のカードローンで生活費を借り入れるようになりました。住宅ローンとは別に、借金は400万円近くになってしまったそうです。
首が回らなくなったBさん夫妻は、悩んだ末に自宅を手離すことにしました。家の売却には成功したものの、住宅ローンの1000万円が残ってしまいました。
妻のパート代だけでは返済困難と判断したBさんは、妻ともども自己破産を申し立てることにしました。
最近になり破産は受理され、現在、Bさんは実家に身を寄せ、夫婦で一から生活の立て直しを図っています。
◆増加する自己破産
AさんやBさんのように、中高年になって自己破産するケースが増えています。
最高裁判所の司法統計によると、2016年の自己破産の件数は前年より782件増え、6万4638件。13年ぶりに増加に転じました。
自己破産は03年にピークを迎え、24万2357件を記録しています。ちょうど多重債務者の増加が、深刻な社会問題となった頃です。こうした社会背景を受け、06年に改正貸金業法が成立し、政府は個人の借入総額を年収の3分の1までに制限する「総量規制」を設けました。これにより、過剰な貸し付けをする業者は少なくなり、自己破産件数も減り続けていました。
にもかかわらず、なぜここにきて増加に転じたのでしょうか。
◆中高年の破産者が増えている
自己破産の申し立ては、40~70歳代の中高年の間で増えています。
このことは、日本弁護士連合会と消費者問題対策委員会が集計した調査結果で確認することができます。
この調査結果によると、20歳代と30歳代で自己破産者は減少している一方で、40歳代以上の破産が増加しているということが確認できます。
中でも注目すべきは、60歳以上の増加です。1997年に12%だった60歳代の自己破産者は2014年には6.7ポイント増の18.71%に。70歳以上で比較すると、1997年はわずか1%でしたが、2014年には8.63%と、大幅に上昇していることが分かります。
かつての自己破産と言えば、若者を中心としたカード破産がよく知られていました。なぜ、今は中高年なのでしょうか。
◆原因は銀行カードローン?
自己破産増加の一つの要因として取り沙汰されているのが、銀行による個人向けカードローンです。
銀行が高い利ざやを期待できる個人向けカードローンの貸し出しに力を入れ出したことで、多重債務者を増やし、自己破産件数を押し上げたのではないかと指摘されています。
銀行の個人向けカードローンの貸出残高は、日本銀行が公表している銀行のカードローンを含む「個人向け貸出金」の推移で増加していることが明らかです。
2003年以降、緩やかに減少していた貸出金は、11年頃から6年連続で増え続けています。特に、ここ数年の貸出金の上昇には著しいものがあります。
貸金業に対する規制強化が進む中、なぜ銀行は貸出金を増やしているのでしょう。
◆依存しあう銀行と消費者金融
理由の一つに挙げられているのが、銀行には総量規制が適用されないことです。
前述の通り、個人が貸金業者から借り入れる場合には総量規制が適用され、借りられる額に制限があります。しかし、総量規制は、クレジットカードや消費者金融を対象とする貸金業法で定められているため、銀行法が適用される銀行、信託銀行、信用金庫などは対象外なのです。
だから、消費者金融などで借り入れを断られても、銀行で借り入れができる可能性があります。
総量規制を超える人への貸し出しは、それ相応のリスクが伴うはずです。しかし、グループ傘下に消費者金融を抱え、そこへ保証業務を委託することで、事実上リスクを負わずに貸し出す銀行もあります。
一方、銀行のグループ会社である消費者金融にとっては、本業の貸し出しが規制強化により減ったとしても、銀行カードローンの貸し出しが増えることで、自ずと保証契約による保証料収入を確保できることになります。つまり、両者は相互依存の関係にあるとの見方もできます。最近では、社会的な批判に応じる形で、総量規制と同様の規制を自主的に設ける銀行も増えてきました。
確かに、こうした銀行カードローンの過剰融資は、自己破産増加の要因と考えられます。しかし、一方で、シニアの自己破産増加の理由として、新たな事実も浮上してきました。
◆中高年の自己破産が増えたワケ
「中高年の自己破産の増加は、かなり前に借り入れた人が、最近になって何かしらの理由で返せなくなっていることが原因である可能性があります」
こう語るのは、多重債務や破産問題に詳しい三上理弁護士(東京弁護士会所属)です。
債務に関する相談を数多く受けている三上弁護士は、10~20年前の借金の返済を続けている人が高齢化し、退職・失業、年金生活、病気などをきっかけに自己破産するケースが増えていると説明します。長年潜んでいた問題が、団塊世代の定年退職などと重なるこの時期に顕在化しているということです。
銀行カードローンについては、かつての闇金のような脅迫まがいの取り立てがなく、「借金をしている自覚が足りない人も多い」と指摘します。現役時代の借金を、まるで「ぬるま湯」につかっているように利息だけ返し続け、そのまま、年金生活に入り、病気になって初めて問題の大きさに気付く人もいるそうです。
三上弁護士は「今後、中高年のカード破産がさらに増えてもおかしくない」と警鐘を鳴らします。
「借金がゼロになるまでの道筋がイメージできない」
「自分の収入だけでは返済できなくなり、返すために借りることを検討しはじめる」
こんな状態になったら、早めに弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。日本弁護士連合会の法律相談、自治体の弁護士相談会、日本クレジットカウンセリング協会などがあります。
安易にカードローンや消費者金融からの借り入れに頼ってしまうと、そこから抜け出せなくなり、自転車操業に陥る人が多くいます。そうならないために、借り入れる場合には、次のような公的な貸付制度の利用をまず検討しましょう。
【生活福祉資金貸付制度】
低所得者、高齢者、障害者などに生活支援金や住宅入居費、一時的な生活再建費などの貸付制度で、地域の社会福祉協議会が窓口となっています。借り入れには原則、連帯保証人を必要としますが、連帯保証人がいなくても利用は可能です。連帯保証人を立てるなら無利子となり、立てられなかったとしても年1.5%程度となります。
【年金担保貸付制度】
国民年金や厚生年金保険などの年金を担保に借り入れできる制度です。医療費や生活必需品の購入費用などが必要になった場合に、一定の条件を満たしていれば、10万~200万円の間で、利率2.1%(2017年9月1日現在)で借りることが可能です。
銀行のカードローンなどから借り入れ、今はどうにか返済できている現役世代の人たちは、10~20年後に自己破産のリスクがあるかもしれません。自分たちが将来の自己破産予備軍であると知ることが、破産の道を避ける第一歩となります。