日本の余命はあと8年!? 政府の楽観予測が示す「暗い未来」



2026年以降の見通しがないのはなぜか



日本経済に関する情報を最も豊富に持ち、最も優秀な分析スタッフを擁する内閣府が、7月18日に「中長期の経済・財政に関する試算」(以下、「試算」と略)を、経済財政諮問会議(議長は内閣総理大臣)に提出した。

2025年度までの名目GDPなどを予測したこの試算、輝くばかりの数字に満ちており、そのひとつひとつに疑いを持たざるを得ない。

万一この「試算」通りに推移したとして、その後に待つのは暗い未来である。まるで「日本はこれから、バラ色の余命8年を過ごす」と宣言しているように見えるのだ。



なんでこんな数字が並ぶんだ



「試算」は、日本経済の将来を「経済再生ケース」と「ベースラインケース」との2通りのシナリオで描く。

「経済再生ケース」は、「デフレ脱却・経済再生に向けた経済財政政策の効果が着実に発現することで、日本経済がデフレ前のパフォーマンスを取り戻す」シナリオである。「消費者物価上昇率(消費税率引上げの影響を除く)は、 中長期的に2%近辺で安定的に推移する」というアベノミクスの目標が達成されるケースである。

一方、「ベースラインケース」は、「経済が足元の潜在成長率並みで将来にわたって推移する」シナリオである。ここでは、アベノミクスが成功する「経済再生ケース」に焦点を当てる。

「経済再生ケース」では、経済活動の全体規模を表す名目国内総生産(名目GDP)は2016年度に約537.5兆円であったのが、2020年度に600兆円を超え、2024年度に700兆円を超え、2025年度に約733.2兆円となる。つまり、2017年度から2025年度にかけて年平均3.5%の成長となる。

これは、小泉純一郎政権の下での2002年~2005年度での年平均0.7%成長、民主党政権期の2009年~2012年度での年平均0.2%成長、これまでのアベノミクスの下の2013年~2016年度での年平均1.9%成長を、はるかに超える。

1人当たり名目総国民所得(名目GNI)は、2016年度に437万円であったのが、2020年度に500万円を超え、2025年度に613万円となる。2016年~2025年度で年平均3.8%の成長である。これも、小泉政権の下での1.0%成長、民主党政権期での0.4%成長、これまでのアベノミクスの下での2.0%成長を、はるかに超える数値だ。

このバラ色の経済成長の背景では、生産要素を最大限に無駄なく利用したときに実現する名目GDPの成長率である「潜在成長率」が、2016年度の0.8%から、2017年度に1%を超えて1.4%に上昇し、2020年度に2.1%、2022年度に2.4%となり、それ以降その水準を維持するというシナリオが描かれている。

この「経済再生シナリオ」をそのまま延長すると、2035年度に、名目GDPは1000兆円を超え1035.3兆円となり、2016年度の1.9倍となる。1人当たり名目GNIは900万円に迫る893.0万円となり、2016年度の2.0倍となる。さらに2045年度には、名目GDPは1461.8 兆円と1500兆円に迫り、2016年度の2.7倍となる。1人当たり名目GNIは1300万円を超え1300.5万円となり、2016年度の3.0倍となる。

正に「バラ色の未来」である。このシナリオが実現するのだ、と国民の4人に1人が信じるようになれば、自民党政権からの政権交代は当分ありえないだろう(自民党が全議席の61.25%を占め大勝した2012年の衆議院選挙で、自民党の得票率は27.79%であった。つまり、4分の1の支持を集められれば、自民党は勝ち続ける、ということだ)。



2025年度まで、なのはナゼ?



そもそもの数値に疑いを持たざるを得ないが、恐ろしいのは、「試算」が2025年度までしか示されていないことだ。内閣府が政権交代直前の2009年6月に「試算」を最初に発表した際には、2023年度までの15年の期間の試算を発表した。それに倣えば、今回の「試算」では2032年度までのシナリオが示されているはずである。

ところが、年に2度発表される「試算」の最終年度は、民主党政権期の2010年から毎回、2023年度に固定され、発表される度に試算期間は短縮された。

自民党が政権を奪還した後の2014年7月の「試算」で最終年度は2024年度となり、試算期間は10年に伸びた。その後、最終年度は2024年度に固定され、昨年7月の「試算」では試算期間が8年に圧縮された。今年1月発表の「試算」から最終年度が2025年度となったが、試算期間は8年に保たれたままである。

政府は満期が最長40年後の国債を発行しているのであるから、少なくとも40年後の2057年度までの経済・財政に関する試算を公開する義務がある。米国では、議会予算局(CBO)が10年後の2027年までの試算とそれを延長した30年後の2047年までの試算、会計検査院(GAO)が43年後の2060年までの試算、さらに、財務省(DOT)が74年後の2091年までの試算を、それぞれ発表している。

それなのに内閣府が8年後の2025年度までの「試算」しか発表しないのは、なぜだろうか。

「所詮は敗戦国の日本に、国家百年の計など、あるはずがない」と一刀両断する前に、その理由を今回の「試算」の中に探ってみる。

アベノミクスの元々の第一の矢である金融緩和は、国債などを大量に買い取ることで無理矢理に低金利を作り出し、設備投資や住宅投資を促すことで、経済成長率を高める「金融抑圧」を意図している。実際、金融緩和によって名目長期金利は低下し、2013年度に0.7%となって名目GDP成長率の2.6%を下回った(図の①)。

「経済再生ケース」において、名目長期金利つまり新規発行10年国債の利回りは、2016年度に年利マイナス0.1%であったのが、2017年度から2019年度までゼロ%台で推移し、東京五輪開催の前年度の2019年度に0.7%へ上昇。さらに2020年度に1.4%へ上昇し19年ぶりに1%を超え、2021年度に2.5%に上昇して同年度の物価上昇率2%を上回り(図の②)、2022年度に3.2%、2023年度に3.7%と上昇を続け同年度の名目GDP成長率の3.8%を上回り、2025年度に30年ぶりに4%を超えて4.3%となる、というシナリオが描かれている(図の③)。

これは、日本銀行が名目長期金利をゼロ%程度とするという金融緩和の「出口戦略」が、東京五輪が開催される前年の2019年度から発動されることを示唆している。

日本銀行が現行の金融緩和を終了したら、名目長期金利がどこまで上昇するのかについては、諸外国の政府債務残高対GDP比率と名目長期金利との相関関係からすると、4%より高く上昇しても不思議ではないと言われている。「試算」は、名目長期金利のゼロ%近傍から4.3%への上昇を6年掛けて達成する「軟着陸」を想定していると言える。

2024年度に名目長期金利が名目GDP成長率を上回ることは、「金融抑圧」が2024年度に終了することを意味する。

少子化と高齢化と人口減少とが今よりも深刻化する2024年度以降、「金融抑圧」無しに設備投資や住宅投資が増加するとは考え難いから、経済成長率は2026年度以降、最善のシナリオでも、2025年度の潜在成長率2.4%に向かって低下していくと考えられる。

「経済再生ケース」における2024年度の名目長期金利4.1%は、米国の議会予算局(CBO)が試算する2024年の米国の名目長期金利3.7%を0.4ポイント上回る。消費者物価上昇率は日本も米国も同じ2.0%と試算されており、低金利の米国から高金利の日本への資本移動が生じ、円高ドル安の圧力が生じる。アベノミクスが成功する「経済再生ケース」において、アベノミクスのエンジンである「円安」は2024年度に終わるようだ。

しかし、そもそも、ゼロ%台を推移してきた潜在成長率が、人口減少が加速する下で、2018年度以降は上昇に転じ、2023年度に2016年度の3倍近い2.3%となるには、労働生産性が劇的に改善されなければならない。これまでのアベノミクスでも実現できなかった改善が、どうして来年度以降に劇的に実現できるのだろうか。




2026年以降の見通しがないのはなぜか

「余命8年」の意味



そこに目をつぶったとしても、名目長期金利の上昇は、国債の利払い費や借り換え費などの「国債費」を増加させるのは確かである。

「経済再生ケース」において、国債費は、2016年度に22.1兆円であったのが、2020年度に24.0兆円となり、2023年度に30兆円を超え33.1兆円となり、2025年度には40兆円を超え41.7兆円となる(図の④)。8年で1.9倍、年平均で7.3%の増加率である。「経済再生ケース」で想定されている名目GDPの年平均成長率4.0%を大きく上回るスピードである。

「経済再生ケース」のシナリオにおける税収等の伸びは、今後8年で1.4倍、年平均で4.1%の増加である。2016年度に国債費は税収等の36.9%であったのが、2020年度に33.6%に低下するが、2021年度から反転上昇し、2025年度には48.3%に達する。この状況を単純に延長すると、2047年度に国債費が税収等を上回り、税収等を全て国債費の支払いに使っても足りない事態となる。

また、名目長期金利が上昇すると、長期国債の価格は下落する。超低金利の下で既に400兆円に迫る長期国債を買い取り保有している日本銀行は、4%を超える名目長期金利の下で巨額の損失を被ることになる。そうなれば、政府の財政難を救うことは、日本銀行を債務超過に追い込みかねない。

「経済再生ケース」は、2019年10月に消費税が8%から10%へ引き上げることを前提とし、「経済成長による税収増」を想定したシナリオである。しかし、税収等は2016年度に7年ぶりに減少し、前年度より3.7兆円(5.8%)も大幅に落ち込み、アベノミクスの重要な支柱である「経済成長による税収増」は頓挫している。

消費税の引き上げを再々延期すれば、自民党は選挙に勝てるかもしれないが、税収増の伸びは減速し、国債費が税収等を食い潰す「Xデイ」を前倒しすることになる。

「試算」の最終年度である2025年度には、1947(昭和22)年~1949(昭和24)年生まれの「団塊の世代」が全て75歳以上の後期高齢者となる。

現行の後期高齢者医療制度では、どんなに高額の医療を受けたとしても、医療費には上限額が決められており、自己負担は1ヶ月で最大5万7600円であり、限度額適用・標準負担額認定証を持っていれば2万4600円あるいは1万5000円で済む。「団塊の世代」が後期高齢者となることで、既に11兆円を超える医療費国庫負担さらには既に3兆円に迫ろうとする介護費国庫負担が激増することは不可避である。

政府は今年8月から、年収に応じて、70歳以上の医療費自己負担額の上限さらに介護保険料を引き上げ、介護サービスの自己負担の払い戻し枠を引き下げるが、「団塊の世代」の人口の厚みの前には「焼け石に水」である。

さらに、当初の薬価が患者1人で年間約3500万円であった癌治療薬「オプジーボ」のような極めて効果が高いが極めて高額の薬品が、今後、次々と実用化されていくと見られる。政府は昨年11月に「オプジーボ」の価格を緊急に半額に引き下げたが、そうした超高価な薬品が続々と登場しているので、これも「焼け石に水」である。

加えて、年金支給が激増することも避けられない。2025年度には、国民皆保険・皆年金が根本から揺らぎ出し、財政の持続可能性が厳しく問われることになるのだろう。

ここまで見てきたように、そもそも「試算」自体、あまりに楽観的な見通しであり、今はやりの言葉を使うなら、経済財政諮問会議の議長である安倍総理への「忖度」すら感じさせるものだ。万が一にも「試算」通りに経済・財政が進んだとして、2026年度以降はどうなるのか、まったく記されていないのはなぜなのか。

それは、日本の経済・財政が、どれだけ明るくとも「余命8年」であることを黙示しているのではないか、と思えてならない。