球場使用料も放映権もタダ!「高校野球ビジネス」はこんなにおいしい


渡邉哲也(経済評論家)さまより


 一般的に「夏の甲子園」といわれる全国高等学校野球選手権大会であるが、その位置づけはよくわからないものである。主催者は営利企業である朝日新聞社と公益財団法人日本高等学校野球連盟(高野連)であり、公的なものとも私的なものともつかない状態になっている。


第1回全国中等学校優勝野球大会の広島中対鳥取中の熱戦を報じた大阪朝日新聞



 これは1915年、前身となる全国中等学校優勝野球大会を大阪朝日新聞社が始めたという大会の歴史にも関係するが、第2次世界大戦後、大会の運営主体として高野連ができた時点で、もともとの役割は終えたといっても過言ではないだろう。しかし、いまだに朝日新聞社は主催者であり続け、大会を企業活動の営業活動に利用しているわけである。


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 ご存じのようにプロ野球はスポーツではあるがあくまでも興行であり、球団選手はそれを興行として行い、ビジネスとして成立させている。各球団は営利企業であり、企業活動の一環として、選手を雇い球場などを運営し、テレビに放映権を販売し、選手や球団のブランドライセンスで稼いでいる。では、夏の甲子園はどうなのか。

13.出場選手の旅費、滞在費補助規定

全国大会 1校20人(選手18人、責任教師1人、監督1人)を限度とし、次の通り旅費と滞在費補助を支給する。
(イ)旅費は代表校の所在地から大阪までの往復普通乗車運賃(新幹線、特急、急行料金を含む)、船舶利用の場合は普通二等の乗船運賃を支給する。ただし、沖縄、南北北海道代表校は航空運賃を支給する。
(ロ)滞在費は抽選日(8月4日)から、その学校の最終試合日までの日数に対し、1日1人4,000円を補助する。
(ハ)前年度優勝校が全国大会に出場できなかった場合、優勝旗を返還する主将と同伴の責任教師に、規定による旅費、滞在費と滞在雑費(1人1日2,000円)を支給する。

 大会規定ではこのように記されており、開催費に入場料を充て、過不足が出た場合、大会準備金を充てるとしている。そして、昨年の夏の甲子園の収支決算を見ると、1億円近い利益が出ている構図になっている。




宿泊も球場もすべて「善意」




 収支決算上は「1億円程度の黒字」となっているが、この黒字は最低限の補助金だけで参加する学校側と選手と地元企業などの負担により生まれている。大阪の平均的なホテルの宿泊費は1泊1万5千円程度で、甲子園開催期間ではさらに高騰することが予想される。高野連はホテルや旅館と提携し、1万円以内で宿泊できるホテル(1校当たり35人まで)を用意しているが、これはホテル側の善意と協力で成り立っているものでしかない。そして、食費を除いても1日6千円程度の差額は生徒や学校が負担している計算になるわけだ。ちなみに第94回大会の滞在費補助が7500円であり、現在の4千円という補助は収益からの逆算で割り出されたものであろう。

 また、主催者である朝日新聞社や高野連は甲子園球場の利用料も払っていない。これは甲子園球場の所有者である阪神電気鉄道の「善意」である。甲子園は全国中等学校優勝野球大会を開くために作られたという歴史があり、甲子園が利用されることで所有者である阪神電鉄に間接的な利益があることに起因するが、当然運営費はかかるわけであり、それは阪神電鉄による寄付的行為で成り立っているにすぎない。



 現在、NHKも朝日新聞社のグループ会社であるテレビ朝日も放映権料を払っていない。しかし、これは最低数十億円の価値を持つものである。先日獲得合戦で話題になったJリーグの10年間の放映権料が2000億円(2017年から2026年)、年間200億円であり、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で放映権とスポンサー収入で80億円程度だといわれている。プロとアマチュアの違いがあるとはいえ、ファンの多い高校野球ではさらに多くの収入を得られる可能性があるといえる。そして、それを開催費用や生徒への補助、学校への助成に利用すればよいのだろう。

 現在の高校野球は非営利という建前で、すべてが人の善意で成り立っている。そして、ここに最大の欺瞞(ぎまん)と利権が眠っているわけである。



大阪府豊中市の「高校野球発祥の地記念公園」。この場所で「全国中等学校優勝野球大会」の第1回大会が行われた

 


非営利であるのであれば、営利目的企業である一新聞社にすぎない朝日新聞社が主催に名前を連ねるべきではなく、高野連が単独主催すればよい話である。また、非営利であったとしても、高野連が放映権を販売するのは問題なく、一方で甲子園球場に対して適正なコストを払うことも可能である。アマチュアビジネスの商業化の是非はあるものの、人の善意に付け込み、それを朝日新聞社やNHKが「タダ食い」している現状を許すよりは格段に良いと私は考える。