求人倍率は99.9倍!深刻な交通誘導員の不足

誘導員を確保できず、工事中止になる現場も


東洋経済オンラインさまホームページより

交通誘導員の4割は60代以上の高齢者。立ち仕事や夜勤は老体にこたえる(写真の交通誘導員は記事本文に出てくる人物とは関係がありません、記者撮影)

「おまえさんみたいな若いもんは、一生こんな仕事就くなよ」──。

7月上旬の真夏日、記者の取材に70歳の交通誘導員の男性はこうつぶやいた。男性は建設現場でダンプカーの出入りや付近を走る自動車の誘導などを行っている。炎天下の現場が続き、肌は真っ黒に焼けていた。



週6日勤務で月給は20万円に満たない

公道を使用する工事には、交通誘導員の配置義務がある。

交通量の多い道路なら、交通誘導警備業務検定2級以上の国家資格を持った交通誘導員が必要だ。だが、その資格に見合った待遇であるとはいいがたい。



山陰地方で交通誘導員として働く50代の佐藤さん(仮名)。勤めていた食品会社が3年前に倒産し、地元の警備会社に転職した。



勤務時間は8〜17時だが、「人手が足りないときは続けて夜勤、日勤と最長32時間勤務したこともあった」(佐藤さん)。資格は持っているが、週6日勤務で月給は20万円にも満たない。



劣悪な労働環境などの理由で、交通誘導員の不足が深刻化している。ハローワークに掲載されている求人によれば、交通誘導員が多数を占める「他に分類されない保安」の2016年度の有効求人倍率は全国で33.7倍。東京都内に限れば99.9倍にハネ上がる。



今年6月には国土交通省が全国の建設・警備業界団体や自治体の入札担当部局に向けて、「交通誘導員の円滑な確保に努めるよう」との通達を出した。



国交省が動いたのは、交通誘導員が手配できず、「工事が止まった現場もある」(福島県の公共工事入札担当者)という、被災地の苦境からだ。特に昨年4月の熊本地震で被災した九州では、警備業者が少なく、「交通誘導員の確保が最優先」(熊本県の建設会社)。



都内の業者にまで発注がかかるが、「首都圏の仕事だけで手いっぱい」(都内に本社を構えるシンコー警備保障・竹内昭社長)なのが現状だ。



公共工事の場合、交通誘導員も含めた建設作業員の賃金は、国土交通省が毎年公表している、設計労務単価が基準になっている。これまで交通誘導員の賃金は、建設資材と同じ共通仮設費に区分されていた。



そのため、「社会保険未加入のまま働かせていた業者も少なくなかった」(首都圏の中小警備会社)。「建設資材と同じ扱いか」との批判もあり、2016年度からは他の建設作業員と同じ、人件費として計上されるようになった。



2017年度時点の設計労務単価によれば、都内で働く有資格者の交通誘導員の日当は約1.4万円。近年の人手不足を受け、5年前と比べ4割も上昇した。だが、ダンプカーの運転手などほかの建設作業員と比べても5000円近く低い。

そのうえ、警備業に詳しい仙台大学の田中智仁准教授は、「行政が賃金を高く見積もっても、結局建設業者や警備業者に中抜きされ、交通誘導員に渡る金額は減ってしまう」と指摘する。



冒頭の男性は「何かを生み出すのではなく、何もないことが仕事の成果だ。だからありがたみが理解されにくい」とこぼす。“ただの棒振り”ではない、彼らの処遇を見直す時が来ているのではないか。