歯科医は「狭き門」? 国家試験合格率が88%から65%まで下がった理由

 近年、歯科医師国家試験の合格率が6~7割台と落ち込み、“狭き門”になりつつある。背景には、過剰となっている歯科医師数を抑制しようという国の思惑がある。週刊朝日MOOK「いい歯医者2017 誰も教えてくれなかった歯科の選び方」では、過剰傾向にある歯科医師の実情に迫った。

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 2017年3月に発表された第110回歯科医師国家試験(国試)の結果では、合格率は65.0%(3049人受験し1983人合格)だった。同時に発表された医師国試の合格率が88.7%だったのと比べると、ずいぶんと“狭き門”である。

 歯科医師国試も合格率9割前後の時代が長らく続いていたが、ここ10年あまり下げ止まり傾向が続いている。背景にあるのはズバリ、歯科医師を過剰とする将来予測と、それに基づく抑制策だ。少しさかのぼって経緯を見てみよう。

 1960年代の日本は国民の3割がむし歯を抱える一方、65年ごろの歯科医師数は、人口10万人あたり35人程度しかいなかった。そこで69年に、国はこれを50人にするという目標を定めた。

 これを根拠にして、歯学部・歯科大学の新設が計画され、一気に4倍近い29になり、約1100人だった入学定員も10年で3500人台にまで広げ、目標を達成した。

 なお歯科医師は増え続け、現在は10万人を突破して、人口10万人あたりでは80人を超えている。今となっては、結果的に過剰な新設計画だったともいえる。

 加えて、需給のミスマッチが顕在化した。歯みがき剤へのフッ素の配合や歯みがき習慣の定着により、むし歯は激減し、歯科の患者数は減少傾向にある。


■入学定員で抑制できず出口の国家試験で絞る


 国は80年ごろから、過剰時代の到来を認識しており、一転して削減策が検討された。厚生省(当時)の検討会の意見を受け、87年には「入学定員の20%削減目標」が掲げられた。98年には、さらに「10%削減」が求められることになった。しかし、私立大では、国の指導の力が及ばないことに加えて、大学経営という問題に直面することになるため、結果的に追加の10%削減は達成されず、統廃合が起こることもなかった。


 入学定員で、歯科医師を抑制できないのであれば、“出口”で絞らざるを得なくなる。06年に、厚生労働省の検討会が、25年には歯科医師数が約1万1千人過剰になると推計。新たに養成する歯科医師の数を少なくとも毎年1割程度減らすため、国試の合格基準の引き上げなどの抑制策を提言した。文部科学省は各大学に定員削減を要請する一方、厚労省は国試による抑制策をとり、以後、合格基準は引き上げられ、合格率7割、6割という時代に突入したわけだ。

 特に私立大では、定員削減が進まないまま、多くの大学が入学志願者減少に見舞われ、定員割れも相次ぐようになった。志願者が減れば、入学者の水準も下げざるを得ず、基礎学力が不足した学生が増え、結果として留年が増えたり、国試合格率が下がったりという、負のスパイラルに陥りつつあるようだ。もちろん、国試合格率の低下には、難度上昇も影響している。

 これらを踏まえた上で、いま一度、最新の国試の結果を、詳しく見てみよう。表中にはないが、新卒者の合格率が76.9%であるのに対し、既卒者は46.6%であり、受験回数が増えるほど不合格割合は高くなるとされる。出願をしながら受験しなかった未受験者が相当数いることも見過ごせない。出願者の約6人に1人にあたる642人が未受験で、当日の体調不良などもあるが、多くは卒業試験の不合格者であると見られている。

 実際に卒業試験にパスする学力に満たない学生が多いのかもしれないが、受験者数だけを分母に合格率を出せば、見かけ上は合格率をかさ上げして見せられることも事実だ。留年した学生からは続けて授業料を取ることもできる。


■狭き門をくぐり抜け学力はお墨付き



 確かなことは、難度も高まった国試で、狭き門をくぐり抜けた合格者は、どこの大学の出身であろうと、少なくとも学力については、お墨付きだということだ。

 ところで、問題の発端となった歯科医師の過剰傾向については議論がある。確かに、歯科医師は医師で最も多い内科医より多く、開業する割合も高い。しかし、都市部を中心に過当競争が起きている一方で、全国には無歯科医師地区もある。また、むし歯こそ減ったが、高齢社会にあって歯周病は増加し、摂食問題への対応など新たな領域も増えている。

 日本私立歯科大学協会はホームページで、「今後、歯科医師不足が予測されます。いま以上に必要とされる存在になります」と呼びかける。歯科医師不足は、厚労省日本歯科医師会の見解とは相反する。学校の保身のための呼びかけでないことを祈りたい。(ジャーナリスト・塚崎朝子)