「田植え戦闘」をサボるのに必死な北朝鮮の人々

北朝鮮では毎年春、協同農場での「田植え戦闘」の支援のため、多くの都市住民が動員される。人々はありとあらゆる手を使ってサボるのだが、その一つが病院で虚偽の診断書を作成してもらうというものだ。

そして、ひょんなことからこのような不正が明らかになり、病院が大々的な検閲(監査)を受けることになった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、検閲を受けたのは、清津(チョンジン)市の青岩(チョンアム)区域にある人民病院だ。医師たちは、ワイロを受け取って虚偽の診断書を大量に発行していたという。



このような不正が明るみに出たのは、おマヌケな事件がきっかけだ。

北朝鮮と平壌を結ぶ国際列車に乗っていたトンジュ(金主、新興富裕層)が、車内で酒に酔って暴れる事件を起こした。取り調べの過程で、このトンジュが人民病院の医師にワイロを渡し、「脊髄狭窄症で長期療養を要する」という内容の虚偽の診断書を作ってもらい、農村支援をサボっていたことが明らかになった。

さらに、役所から旅行証(旅行許可証)を受け取り、親戚訪問の名目で頻繁に中国に行っては、商品の買い付けを行っていた。通常、農村支援期間中の旅行証の発行はまず許可されない。

それだけではない。



このトンジュは、無職であることも判明した。北朝鮮の行政処罰法90条は、正当な理由なく職場に出勤しない者は、最高で3ヶ月以上の労働教養(強制労働)に処すると定めている。つまり、無職は罪なのだ。ちなみ、国から割り当てた職場に所属してこそ「職業がある」と見なされるのであり、自営業は職業扱いにならない。

このような不正が中央に報告されたことで、病院に対する検閲が始まったというわけだ。しかし、これは氷山の一角に過ぎない。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、庶民は農村支援でヒイコラ言っているのに、金持ちは病院からもらった虚偽の診断書のおかげで家でゴロゴロしている。こうした現状に対し、庶民の間からは怨嗟の声が上がっている。



1ヶ月休むための診断書を作ってもらうためのワイロは、200元(約3280円)が相場だ。これでも庶民にとっては大金だが、大金持ちになると桁違いの額のワイロを渡し、数カ月から数年も休める診断書を作ってもらう。中には、社会保障者(長期療養者、障がい者)扱いにしてもらい、一切の労働、動員を免除してもらっている者すらいる。

このような不正は毎年のように摘発されるが、検閲係官にワイロを渡せばもみ消してもらえる。また、そもそもの原因が国のシステムにあるため、根絶は不可能と言っても過言ではないだろう。

人民病院の医師の給料は、コメ1キロ分にしかならない5000北朝鮮ウォン(約65円)前後。かつては様々な配給がもらえたため、これぐらいの給料でも生きていけたが、90年代後半に配給システムが崩壊してからは事情が一変した。



中絶手術、往診、虚偽の診断書発行など違法行為に手を染めて、ワイロを受け取らなくてはたちまち餓え死にしてしまう。

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また、毎年行われる農村支援も北朝鮮の悪習のひとつだ。都市住民が、支援の名目で農村に大量に送り込まれるが、農業の素人にまともな仕事ができるわけがない。働かずにサボっている支援者も多い。それなのに農村の住民は、彼らに食事や宿を提供しなければならない。

農村支援の邪魔になるとして、市場も営業時間が短縮させられたり、閉鎖させられたりする。商人たちは現金収入がなくなり、たちまち明日の食事に事欠く事態に陥るのである。