北朝鮮の漁師300人以上が事故で行方不明に

昨年の12月29日、北朝鮮の平壌で金正恩党委員長が打ち出している漁業奨励策の成果を発表、賞賛するための、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)第4回水産部門熱誠者会議が開催された。

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しかし、北朝鮮当局は「1年のうち300日漁に出よ」などと言った無茶な指示を下している。そしてこのノルマを達成するために、不十分な装備の船で悪天候の中出港することが多く、事故が多発している。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、昨年(2016年)の「漁労戦闘」で300人以上の漁師が行方不明になっている。とりわけ、6月下旬からのイカ漁では200人、11月からのハタハタ漁では100人の漁師が死亡または行方不明になっているとのことだ。



情報筋によると、この数字は道の人民委員会(道庁)行政局幹部から伝えられた。各道の人民委員会は秘密裏に海難事故の発生件数と死者数、行方不明者数を集計しているようだ。

漁師たちは、大工が作った小さな船に乗って漁に出るが、沈没した船やエンジンが故障して放置された船が数万隻に及ぶという。また、小型漁船には6〜7人の船員以外に、他地方から出稼ぎに来た労働者数十人が乗っていることが一般的であることを考えると、死亡・行方不明者の数は、これよりはるかに多いだろうと情報筋は見る。

このような状況にもかかわらず、地方の労働党や行政官僚は、人命救助には全く関心を持とうとせず、捜索活動は一切行わない。身内が事故に遭っても、どこにも訴え出るところはない。訴えれば、逆に「脱北したのではないか」と疑われ、保安員(秘密警察)から責められたり、監視されたりする有様だという。



唯一伝えられたのは、沈没する船で金日成、正日氏の肖像画を守り抜き、命を落としたという船長の美談だけだ。このような状況に、人々の怒りは頂点に達していると情報筋は伝えている。

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そして行方不明者の一部は、日本にもたどり着いている。



共同通信の調べでは、昨年10月以降だけでも16隻の木造船と27人の遺体が発見されている。20日には、能登半島沖で北朝鮮の漁船とみられる木造船が漂流しているのが発見された。また、今月11日に韓国東海岸の沖で発見された北朝鮮漁船は、3ヶ月間漂流していたことが明らかになっている。

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金正恩氏が2017年の新年の辞で強調した「より多くの近代的な漁船を建造し、東海岸地区に総合的な漁具生産基地を築いて水産業の物質的・技術的土台を強化しなければなりません」という言葉も空しく響き渡るばかりだ。