貧困に陥った若者が、「下流老人」になる未来

生活保護受給者の爆発的増加は避けられない


東洋経済オンラインさまホームページより

「若者の貧困」は、最終的に財政負担の増大に行き着くだろう(写真:Halfpoint/ PIXTA)

わたしは高齢者の貧困問題について、『下流老人』(朝日新聞出版)を書いた。その過程で気づいたことがある。それは、若者の貧困と高齢者の貧困は密接につながっているということだ。若者たちへの支援が十分でないと、彼らが年齢を重ね、老後を迎えた際の生活状況が凄惨(せいさん)なものとなる。

消費意欲が高いにもかかわらず、多くの若者がすでに消費できない状況にある。下流老人の実態をテレビ報道などで目の当たりにすればするほど、若者たちは老後を憂い、保身的になり、萎縮してしまう。自分自身もああなってしまうのではないかと、不安に駆られ、消費行動にそれは現れる。モノを買ったり、積極的に何かを学習するなどの「自分への投資」をできる資金を稼いでいたとしても、老後のためにせっせと貯蓄に走る。


貧困は、物質的にも精神的にも・・・


定年を迎えた時、年金がもらえるかどうか分からず、自分の生活の先行きも不透明で、禁欲的な生活を送らざるを得ない。しかしそのことで結局、精神的にも豊かな生活ができず、ますます若者らしい快適な生活ができないという悪循環に陥ることになる。

自動車をひとつの例にとろう。1990年代以降、トヨタ自動車の国内販売台数と海外の販売台数は反比例している。少子高齢社会の特徴は、個人消費の落ち込みだし、日本を象徴する企業であるトヨタ自動車が過去最高益を上げていても、国内にはトヨタを買えない若者たちが大勢いる。過去最高益の背景は、海外の販売が好調であることで、もはや日本国内の消費は減り続けているのだ。


しかし、若者が貯蓄に走れるならまだいいほうだ。これらの貯蓄をはじめとする資産形成ができない環境が貧困世代に急速に広がっている。若者の雇用環境と賃金、生活状況を見るかぎりにおいては、貯蓄するには極めて困難が付きまとう。



生活保護受給者の爆発的増加は避けられない


経済学者の森岡孝二氏も、著書『雇用身分社会』(岩波新書)において、「労働者がさまざまな雇用形態に引き裂かれ、雇用の不安定化が進み、正規と非正規の格差にとどまらず、それぞれの雇用形態が階層化し身分化することによって作り出された現代日本の社会構造」が問題だと指摘する。

森岡氏は同じ企業内において、厳然と身分が形成されていることを指摘し、非正規雇用と正社員の間にある「断絶」を問題視している。そのような雇用形態としての身分は、戦前にあった繊維産業の工場労働者における正社員と、差別を受けていた「職工」や「女工」のようであるとすら記述している。

若者たちは、日々の生活を送るだけで精一杯だ。現代日本の社会構造の問題として若者の労働環境を是正しなければ、日本は生涯にわたって低賃金で不安定な階層を作り出し、温存していくこととなる。若者に自動車を買うなどの消費をするための余力を与えてほしい。


「1億総下流老人社会」が到来する


そして、現在年金を受け取る立場の人よりもさらに現役時代の賃金が低い場合は、生活保護基準を割り込んだ年金収入しか老後に得られないことは明らかだ。若者の貧困と高齢者の貧困は相当に関連性があり、密接なつながりを有している。いまここで対策を打たなければ、「1億総下流老人社会」が到来することは目に見えているのである。

にもかかわらず、若者たちへのまなざしや支援の希薄さは顕著である。下流老人や貧困世代の抱える問題は、もはや個人的な問題ではなく、社会政策として対応を求められているのだということは繰り返し強調しておかなければならない。

現在の雇用形態や賃金が続けば、生活保護制度を利用せざるを得なくなる人々が、ちらほらというレベルではなく、間違いなく膨大な数に及ぶ。これは社会保障制度の根幹にかかわる問題である。

国税庁の調査によると、日本の民間企業の従業員・役員が1年間に得た平均給与は、415万円とされる(2014年時点)。この平均年収が40年間続くことを前提すると、前述したとおり、老後におよそ月額16万5000円の年金が支給される。


東京都23区の生活保護基準額は、生活扶助費と住宅扶助費(上限額)を合計して、約14万円程度(単身世帯の場合)である。その場合、福祉事務所が継続的に生活保護を必要としなくなるための水準(生活保護自立水準=生活扶助基準+住宅扶助特別基準+基礎控除100%)だと想定しているのは、約17万円強である(2014年時点)。

この基準に医療費や各種税金、保険料などの減免も入れれば、東京都23区内において、ひとりで健康で文化的な生活を送るためには、20万円程度必要であることが理解できる。年収にすると、ひとり暮らしの場合、240万円程度は手取りとして必要な金額と言えよう。年収が平均程度の会社員でも、老後の年金水準では、都内23区に住み続けることが困難な指標だ。だから、正社員にはなれなかった若者たちが年老いたときに、現在同様、年金以外のセーフティネットが整っていないなら、生活保護でしか生活を維持できない世帯は明らかに増えるだろう。