えんみには20年以上続く文通相手がいます。
もちろん顔なんて覚えていません。
わかるのは封筒と手紙に書かれている相手の字だけです。



出会った時は9歳でした。
出会ったのは病院でした。



女の子は耳の手術をしていて、
片耳が聞こえない状態でした。

ちょっと不思議な女の子でした。

朝歯磨きの時に声をかけても
振り向かないので
大きな声で話しかけたらようやく振り向きました。
聞こえる方の耳にイヤフォンをはめて音楽を聴いていたのです。
えんみの声なんて聞こえるわけありません。
「えぇ?イヤフォンしてる時に話しかけるから悪いんだよ!」
えんみは笑いました!



大きくなって
えんみはいろいろな場所へ行くようになりました。


旅先から出すポストカードは、
えんみ父母へ、
そして
女の子へ。

えんみ実家の次に覚えている住所は
女の子の実家の住所なのです。


女の子は結婚しました。
名字が変わりました。
それでも文通は続きます。


去年の年賀状に、
「家族が増えまーす」って書いてありました。

赤ちゃんが産まれる頃に手紙を書きました。
返信がありませんでした。

今年の年賀状は届きませんでした。



そして、
えんみの誕生日、
2018年2月15日、
手紙が届きました。


「あれ?」


違和感があったのです。


いつもの女の子の字と違う?



差出人を見ました。
女の子の名前です。


封を開けました。


いつも可愛い便箋を使う女の子、
今回はA4の白い用紙が入っていました。




そこに書かれていたのは、


出産1ヶ月前に脳出血で倒れたこと
右半身麻痺となったこと
左手が上手くまだ使えないこと

それでもだんなさんと赤ちゃんと楽しく暮らしていること




言葉が出ませんでした。




そして、
最後に書かれていたのは、


私たちは子どものころからいろいろ経験しているからこれからもなんかあっても強く生きていけるよねきっと!」



涙が流れ落ちました。



どんな思いで
不自由な手を一生懸命使ってパソコンのキーをたたき、
えんみに手紙を書いてくれたのか!


生活するのだって大変なのに
えんみの誕生日を祝ってくれたこと、
どんなに嬉しかったか!

そして
おそらく
封筒にえんみの家の住所を書いてくれたのは女の子のだんなさん。


涙がぽろぽろ落ちました。




女の子もえんみも、小さい頃のこと全く覚えていません。
確かにいろいろ経験してきた記憶があります。


えんみは自分を恥ずかしく思いました。
えんみは子どもの時自分1人だけが大変だった、
どこかでこう思っていたのです。




強く生きていける
と言った女の子。



えんみはまだ女の子にかける言葉が見つかりません。

ただただ涙が止まりません。





近々
えんみはまた手紙を書くでしょう。


手紙を書いてくれたこと
どんなにうれしかったか、
手紙を送ってくれたこと
どんなにうれしかったか、
伝えたいのです。


そして
これからも手紙を書き続けること、
伝えたいのです。

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