創傷(特に擦過傷)や熱傷、褥瘡などの皮膚潰瘍に対し、従来のガーゼと消毒薬での治療を否定し、「消毒をしない」「乾かさない」「水道水でよく洗う」を3原則として行う治療法。
モイストヒーリング、閉鎖療法、潤い療法(うるおい療法)とも呼ばれる。
湿潤療法推進者は、「創傷の治癒と言うものはもとより細胞を培養する様なものであり、従来の様に乾燥させるより湿潤を保った方がよいのは自明である。
しかしながら創傷が治癒するとそれが乾燥することから、乾燥させれば治癒すると言う勘違いや、消毒に対する信仰などでこれまでは誤った治療がなされてきていた」と主張する。
消毒薬が容易に傷のタンパク質との反応によって細菌を殺す閾値以下の効力になる一方で、欠損組織を再生しつつある人体の細胞を殺すには充分な効力を保っていること、再生組織は乾燥によって容易に死滅し、傷口の乾燥は再生を著しく遅らせること、軽度の擦過傷においては皮膚のような浅部組織は常在細菌に対する耐性が高く、壊死組織や異物が介在しなければ消毒しなくても感染症に至ることはほとんど無いことなどに注目して考案された。
傷口の内部に消毒薬を入れることを避け、再生組織を殺さないように創部を湿潤状態に保ち、なおかつ感染症の誘因となる壊死組織や異物を十分除去(デブリードマン)し、皮膚常在菌による細菌叢を保持し有害な病原菌の侵入を阻害することで創部の再生を促すものである。
湿潤治療が適用されるかどうかの診断は必要であり、治療前後の受診は必ず行うようにすることが望ましい。
家庭での治療は、軽度の創傷(軽度の擦過傷、切創)に限って用いられるべきであり、化膿が発生した場合は速やかに医師の診察を受ける必要がある。
また、破傷風予防の観点から、野外での創傷(軽度の擦過傷を除く)、特に木枝や錆びた釘、鉄条網などによる怪我、動物による咬創(狂犬病)などは、これらの傷は比較的深く、湿潤療法を行うにせよ通常の治療を行うにせよ、傷口の奥深くまで異物や細菌が入り込んでいるため、傷口の洗浄の上、時として解放創としてドレナージを行う必要があるため、外科系医師(できれば形成外科医などで創傷外科に通じた医師)の受診が必要である。
大量の水道水、あるいは清潔な水で傷口の汚れを完全に洗い落とす。
この時、決して消毒を行ってはいけない。
異物が見られる場合は、これを徹底的に除去する。
程度によっては局部麻酔が必要となるため、必要であれば医療機関を受診すること。
勿論傷が深い場合にも医師の診察を受けるべきである。
必要であれば圧迫によって止血を行う。
やはり止血が困難な場合などは、家庭で治療を行うべきではない。
出血が止まったら、ラップなどのドレッシング材を傷より大きめに切り、患部に当てる(保湿効果のある白色ワセリンをラップに塗り患部に当てるとなお良い)。
貼ったラップを包帯、医療用紙テープなどにより固定する。
ラップは1日に一回。
夏などは1日に数回取り替える。
この際、流水などで創傷周囲の周囲を洗うこと。
市販の湿潤療法用絆創膏であっても特に問題は無い。
創傷周囲の皮膚は、特に夏場にかぶれなどにより痒みが強くなるが、特に創傷からの体液分泌が多いときに、ラップ表皮下にある皮膚かぶれへの、かゆみどめ等の薬剤の使用は控える。
(かぶれを放置すると治癒した後も色素沈着などが長期間残る場合があるため、ラップ療法を中止し、医師の診察を受けるべきである)
※夏期にラップ療法を行うのは非常に困難。
上皮化が完了すれば治療完了となる。
上皮化のサインとしてキズがピンク色になり新たな皮膚ができ、痛みがなくなる。
次の場合は、適用してはならず、最初から医師による診断、治療を受けるべきである。
●深い創傷。
●動物による咬み傷は、狂犬病、破傷風等の危険性がある。組織の一部を噛み千切られた場合なども。
サンフォードガイドなどの成書・ガイドラインによると、動物咬傷では抗生物質の服用をすすめている。
●擦過傷の場合、深さと大きさによるが、数cm平方を超える場合は一度でも受診が望ましい。
完治近くなる(ピンク色に表皮が形成され、浸潤液がなくなる)までに1週間以上掛かる場合も、同様である。
※形成障害・瘢痕拘縮のおそれがある。
●切創の場合、しびれや運動障害が見られる場合は、神経や腱の損傷が疑われる。
●出血が多く、絆創膏やガーゼ程度では止血が維持できない場合。
※既に創傷は軽度ではなく、ただちに受診すべきである。
●汚染がひどく、創感染を発症することが考えられる創、ないしは受傷直後の汚れた外傷は、専門医による創洗浄などを要する。
土壌中には破傷風菌を含む多くの菌がいるため医療機関を受診することが必須と考えられている。
●特に受傷初期において、1 - 2日経っても治癒の進行が無いか、遅いように見える場合。
※悪化する場合も。
●治療開始後数日を経ても痛み・発赤・腫れがある場合。
●抵抗力が弱い患者(乳幼児、老人等、糖尿病患者、その他の易感染性患者)。
●有害な生物・化学物質による皮膚傷害、または傷が有害な生物・化学物質に暴露した場合。
●受傷直後で専門医による深達度診断がなされていない熱傷。