(268)江戸生まれ現在884人
法務省の全国調査によると、戸籍上は生きているのに現住所がわからない100歳以上は23万4354人いる事がわかったそうだ(平成22年)。うち120歳以上は七万七千百十八人で、江戸時代生まれの150歳以上が八百八十四人もいる。生きておられるのであれば、江戸城無血開城や、上野彰義隊事件の様子などを聞いてみたいものだが、みなさん死んでいる。ようするに「死亡届や失踪宣告が提出されなかった」ために死が認められない。
こういうのはお役所仕事の典型で、書式が出されなければ公的には死は認定されない。お役所にしたって「私は聞いておりません」としかいえないでしょうね。すると「聞いていないのだから生きているはず」ということになる。役所といっても勝手には殺せない。日本はどっかと違い法治主義。
誕生したことを認めるのは国の仕事だが、死を認められるのは難しい。役所はそういった「幽霊老人の数を一人単位まで厳密に把握」しつつ放置してきた。表現が適切か否かは別として、役所だって「だって死んだとは聞いていないのだからしょうがないでしょ?」
選挙が近そうだ。100歳以上「所在不明高齢者」23万4354人だけで都市ができる。それは幽霊や骸骨がバッコする妖怪都市なんだけど、当選回数が少ない立候補者にとってはそうとう魅力があるに違いない。また政府も財政赤字のおりですから・・・・・・と、「幽霊税の徴収を検討したい」、なんていい出すに違いない。
実際は、「戸籍だけで生存する行方不明者」は、大震災、戦中、戦後の混乱などで亡くなった方々が多いという。つまり幽霊老人の皆様は、自分の意思で幽霊になったのではないらしい。若い頃に震災や戦争のため、無念の死をとげた人がほとんどで、若くして死亡したはずだから老人の幽霊は少ないだろう。「理不尽な死をとげたから化けて出る」のであって、「高齢化したから出る」のではない。
それやこれや、国、つまり法務省もちょっと現実を考えて平成22年9月10日に以下のような通達を出しました。
(1) 市区町村長が許可申請書に記載する「生死及び所在につき調査の資料を得ることができない事由」については,120歳以上の高齢者であり,かつ,戸籍の附票に住所の記載がない旨を記載すれば足りる。
(2) 上記許可申請書には,当該高齢者の現在戸籍及び戸籍の附票の各謄本を添付すれば足りる。
という内容が含まれていますが、実際には120歳以上は抹消してくださいな? との担当部署から頼まれた形を取るのだそうな。
なぜかを厳密にいいますと【「申請者」とか「申請書」】が提出された場合の事務手続きでして、何かの間違いで申請がないと「聞いておりません状態」となり、そのまま継続しちゃう。
で、法務省民事局民事弟一課に電話で照会しました。で、以下を確認した。
書類上、もしくは形式上、江戸時代生まれの戸籍が生きており、で、「何らかの理由で誰も抹消請求をしない場合」、江戸時代生まれの所在不明高齢者がいる事になりますか? と尋ねたら「いますねえ・・・・・・」と、で、どうも本当においでになるらしい。
自分の死は他者によって確認され、死んだ当人は自分の死を役所に届けることはできない。家族か友人かアカの他人に発見されて死が確認される。そうはいっても現実的でないから、上に書いたように120歳以上の行方不明老人はいなくなり、通達一通で死者と断定された幽霊老人の霊は「いまさら急にそんなこと言われたって納得できない」ととまどうことだろう。
江戸時代生まれとなっている八百八十四人は、せっかく150歳までお国が認めてくれたんだから「この先、200歳や1000歳まではそのままにして記録更新したい」と反発するかも知れず、無形幽霊文化財とかに認定、その苦難と忍耐を供養し、末永く栄誉を讃えようではありませんか。
あのですね、「靖国問題」とか「そういうこと」をキチンとやっておかないと、江戸直下地震みたいな崇りに襲われることになるんじゃないか。最近、自然災害が多すぎる。
引用図書:『道楽人生・東奔西走』嵐山光三郎著 新講社 2011年刊
