(288)魚の群れとヒットラー? | 江戸老人のブログ

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(288)魚の群れとヒットラー?

 

 

 生物資源学研究者、有元貴文(ありもと・たかふみ)氏は魚類の研究を長く続けられ、面白い話題を提供してくれる。著書のタイトルは『魚はなぜ群れで泳ぐか』となっているが、なに、難しい話はなくて「ふーん」とか「なるほど・・・・・・」といった話題を一冊に集めている。

 あたりまえの話だが、すべての魚が群れを作るわけではない。いつもは単独で生活し、産卵など必要なときだけ群れる種もあるし、さまざまだという。

 

 「魚群」と書いて「なぶら」と読む。古くから漁業者の言葉で、映画のタイトルに使われたことがあるからご存知の方が多いかもしれない。「ただ、まとまっている」だけではダメで、整然とした統一性があるものを「群れ」と呼ぶ。つまり全体が一つの方向に移動しているときの規則性があるまとまりのことで、英語ではこれをschoolというそうだ。「メダカの学校」とは、「メダカの群れ」のことになるとか。辞典には[a school of whales ]が「鯨の群れ」とあるから事実だろう。
 

 魚の群れについて、さまざまな研究が進んでおり色々な規則性があるが、話が面白くないから勝手に省略する。

 ひとつだけ、なぜ他の魚の動きにキチンとついて行くのか?の実験があり、円形の水槽に魚を入れ、周囲の壁にあたる部分に縦に何本もの平行線を描き、これを回転させると魚はピッタリとついて泳ぐそうだ。周囲は動かさず、魚がいる水を回転させても、同じことが起きるという。ちょうど人間が電車に乗っていて、で、隣の電車が動き始めたとき、一瞬、自分のほうが動いたような錯覚にとらわれるが、全く同じ原理と書いてある。

 

 ところで魚の群れにリーダーはいるのだろうか。たとえば池で泳いでいるコイの群れを眺め、動きを追っていると、目的があるような、ないような、ゆったりとした動きが続く。この群れの中に小石をひとつ落としてみると、石の落ちた近くの個体は、小石に反応して小石から遠ざかる。この動きに対応し、隣の個体も相手との距離を保つように位置を変える。そして、この動きが波のように群れの中を広がり、結果として、石の落ちたことに気づいていない遠くの個体も反応することになる。この研究については、今のところ「魚の群れにリーダーはいない」という考えが主流だという。
 

 大事なのは、「同じような大きさの個体が集まっている」との条件が大きな意味を持つそうだ。では指導者のいない魚の群れで、その動きを決めているものは一体なにか?という疑問にぶつかるが、「お互いが同じ能力で、対等の立場にあるという民主的な決定の仕組み」によっているのだそうだ。

 

 過日、国会の原発事故調査委員会だったかで、もと内閣総理大臣が参考人として質問を受けていた。「あれ」の動きは「書く気がしないほどイヤだ」という人気の記者ブログがあって、筆者もまったく同感しているのだが、研究者の有元貴文氏でさえ「これって、人間社会のハナシじゃないのか?・・・・・・」といった実験が記されており、話のタネになりそうだからご紹介したい。
 

 ウグイの群れから一尾をとりだし、その脳の一部を傷つける。この個体は泳いだり、餌を探す行動については正常だが、実は「群れ行動」をとるとき、「他の仲間との協調性に欠ける」との特徴があるそうだ。「後方からの仲間の存在など気にせずに、勝手気ままに泳ぐことで、この個体がリーダーとなって、群れ全体が動き始める」という実験が知られているという。コンラート・ローレンツ氏(1903~1989:ノーベル賞受賞者)が『攻撃――悪の自然誌』という本の中で紹介しているそうだが、「手術を受けた魚は、まさにその欠陥によって、まぎれもない総統になった」という文章を読むと、「本来は民主的な集まりであっても、むちゃな指導者の存在に引っ張られてしまう」、との「人間集団の怖さ」を説いているという。このヒトはナチの迫害を受けたことがあり、ナルホドと想ってしまう。




海洋牧場
 わが国では新しい産業として育ち始めているそうだ。マダイのような高級魚を対象に、親魚を成熟させて産卵させ、水槽の中で孵化させ稚魚を育てる。そのまま生簀(いけす)で大きく育てれば養殖となるが、ある段階で海に放して自然に戻し、沿岸の資源を増やす「栽培漁法」という事業が日本各地で行われている。
 このとき稚魚を海に戻す前に、水槽や生簀の中で決まった音を聞かせてからエサを与えることを繰り返し、音を聞くとエサを食べに戻ってくるように訓練する。その後に海へ戻すと、あまり遠くへ行かず湾の中でエサを自分で獲って成長してくれるそうだ。
 
 蓄養といえばマグロが有名だが、この魚は一生の間、常に泳ぎ続ける。そうでないと呼吸ができないから死んでしまう。いつもはノンビリした速度だが、エサを捕らえたり危険を避けるときなどの「突進速度」など、平均するとあらゆる魚の中でもっとも速いそうだ。数字を出すのは大変らしいが、氏によると突進速度は時速60キロから80キロ程度で、クルマと同じほどらしい。潜水して計ろうとしたが、あまりの迫力に危険を感じてやめたという。

 

 大西洋のクロマグロ(本マグロ)は成長しながら大回遊の途中で寄り道をし、地中海に入り、六月から七月にここで産卵して、その後はジブラルタル海峡を抜けて大西洋に戻っていく。産卵を終えて大西洋に向かう途中に定置網で漁穫されたクロマグロは、脂分が少なく、日本人がありがたがる刺身用のクロマグロとしては価値が低い

そこで、定置網の隣に大型の「網生簀」を用意し、漁穫されたクロマグロをこちらへ移して毎日エサを与え、じゅうぶんに太らせ、脂をのせてから日本に出荷する事業を日本とスペインの合弁会社で行っているそうだ。エサは主としてノールウエイ産の冷凍サバを使う。サバとして食べると10人分の食料となる量だという。飼育期間は三から六ヶ月。出荷のピークは日本での師走から正月になるという。味が落ちるから可能な限り手早く〆る必要があり、銃器を使うとのこと。

 日本の近畿大学では、ゼロからのマグロ蓄養に成功しているが、コストがかかりすぎ、まだまだ実用段階ではないという。しかし普及は始まっており後は時間の問題だとのこと。


引用本:『魚はなぜ群れで泳ぐか』有元貴文著 大修館書店 2007年