(193)初めて紅茶を飲んだ日本人? | 江戸老人のブログ

江戸老人のブログ

この国がいかに素晴らしいか、江戸から語ります。

 



(193)初めて紅茶を飲んだ日本人?

 
 はじめて紅茶を味わった日本人は誰でしょう。たぶん大黒屋光太夫(だいこくや・こうだゆう)という伊勢・白子(しらこ)の船頭さんとされます。この人は、船が嵐で流され、ロシアまでいっちゃた。イロイロあって何千キロを旅しまして権力者といわれた女帝エカテリーナ2世に拝謁し「自分を日本へ返してくれ」と直訴しました。俳優の緒方拳さん主演で映画化され、ご覧になった方もおいでかと。詳しくは、井上靖著『おろしや国酔夢譚』昭和43年刊に、あるいは吉村昭氏の作品『大黒屋光太夫』を。結構、面白いですよ。

 

 じゃあ、紅茶を最初に持ち込んだのは誰か?例の黒船騒ぎの後、1856年伊豆の下田に常駐したハリスさんが幕府へ献上したとされます。もっとも日本では茶の栽培は盛んでしたから、紅茶くらいには驚かなかった。「フーン、こういうの好きなのか・・・売り込んじゃおうかな?」と明治7年に明治政府が紅茶生産と輸出を検討した記録があるとか。  
 

 実はその前の幕末、かなり大量茶葉が九州、横浜からヨーロッパへ輸出されておりました。「紅茶」ではなく「緑茶」です。英国へ茶を輸出したのは、日本が最初なのであります。ちなみに輸出を始めて軌道に乗せたのが女性でして、「大浦お慶(1825~1884)」さんだったかと。当ブログ(53)明治の元勲を育てた女豪傑に。坂本竜馬にお小遣いをあげたりしておりました。養蚕の時期と重なります。この頃、横浜の農家仏壇には英和辞典が普通においてあったといいます。


イギリス王室と紅茶
 紅茶といえば大英帝国ですが、英国では「茶葉」はいっさい採れない。なのに今でも取引額は世界最大と言われます。紅茶をブレンドする技術が優れ、これが原因だそうです。英国のテレビで茶を評価する様子、マナーもへったくれもありませんで、大きめのスプーンからズーズーと大音響で吸い込み、クチュクチュした後、ペッと吐き出す。日本のソバなんてかなわない、いや迫力満点でした。

 

 お盛んだったヘンリー8世(1491-1547)の6人の愛人というか奥さんのひとり、キャサリン王妃が、17世紀中頃、茶を飲み始めました。その後、メアリ女王(1662~94)が故郷のオランダから茶と陶磁器を持ち込みます。さらにアン王女は、朝食に必ず茶を飲み、王室で茶会を開いたそうですが、これらの「チャ」のほとんどが日本からの輸入品でした。この頃はCHA」と発音しておりましてティーではない。最初は緑茶にミルクと砂糖を入れて楽しんでいたそうです。旨くないですけどお試しください。ビタミンCとカテキンは一杯です。ま、身体にいいのです。「梅干」も教えてあげればよかったんですが。


水で味がちがう
 英国では、一日に何回もがぶがぶと感心するほどよく飲みます。ただし加える牛乳の量がすごい。空気が乾燥しているからでしょうね。日本と英国で、同じ茶葉を飲み比べてみましたが味が違う。たぶん水の違いと湿度の違いでしょう。
 リプトン紅茶が英国紅茶の代名詞となっていますが、この会社を作ったサー・トマス・リプトンさんは、使う水で、味と香りが異なると気づき、イギリスそれぞれの各地方の、水にあわせてブレンドしました。つまり場所によりブレンドを変え、これが評判となり大成功したそうです。
 その頃中国のアモイで、現在の紅茶に最適の茶が見つかり、「これは美味い」とますます盛んになる。ということは日本からの茶輸入は終了します。
 

「茶を運んでいる途中で発酵して紅茶になった」というのはまったくの誤解です。茶葉は特殊な酵素を持っており、つむと同時に発酵を始めます(自家発酵)。加熱して発酵を止めるこれを殺青(さっせい)といいますが、殺青すれば緑茶、発酵させると紅茶、半発酵でウーロン茶です。なお緑茶にビタミンCはたっぷりですが、紅茶には含まれません。ご注意のほど。
 世界の茶業界を動かし始めたのは、この日本なのでありました。これホント。

カテゴリ: コラむ
フォルダ: 食文化