【よ】特別読切小説『ヘラコ少年とクリスマス会』 | マイるどミルドオフィシャルブログ「よりぬき!マイるどミルド」Powered by Ameba

【よ】特別読切小説『ヘラコ少年とクリスマス会』

クリスマスですね。みなさんいかがお過ごしですか?楽しいクリスマスを過ごしてる方も、そうでない方も、こちらの日記でお楽しみ下さい。


【よりぬき日記】
特別読切小説『ヘラコ少年とクリスマス会』

授業終了のチャイムが鳴ると、担任の柴田先生は黒板から向き直り、4年1組の生徒達を見回した。そしてニコッと微笑むと
「みんなが提案していたクリスマス会ですが、明日の5時間目にやりましょう」
と言った。
その瞬間、クラス中から歓声が起こり、お調子者の田中くんなどは椅子の上に飛び乗り喜びを表した。

当然、ヘラコ少年も嬉しかった。「クリスマス会」という響きには大した魅了も感じないが、授業が一つ潰れると考えれば嬉しくないハズがない。

柴田先生は話を続けた。
「そこでプレゼント交換もしますので、みんなプレゼント持って来て下さい。但し、お金のかからないものにします。家にある要らなくなったものでも何でもいいです」

ヘラコの顔が突然曇った。
要らなくなったものでもって言われても、ホントに要らないもん持ってく訳にもいかないだろう。プレゼントと言うからには一応もらって嬉しいものじゃないとダメだろうし…意外にめんどくさいことになってきたなぁと、ヘラコは少しだけクリスマス会が煙たくなってきた。

放課後、同じ方向に帰る仲間達にプレゼントの話を切り出してみた。
すると、橋田くんが当たり前のように答えた。
「何でもいいって言ってたじゃん。俺、短くなった鉛筆にするよ」

そして、他の仲間達も「残り少ない絵の具」「腕がちぎれたキン消し」などと続き、文字通り「要らないもの」をあげた。

ヘラコは驚いた。まさかホントに要らないものをあげるとは。
でもおかげで大分気持ちは楽になった。
しかし楽になった一方で自分にはそこまで「要らないもの」を持って行く勇気も無いことに気付いた。

「やっぱりプレゼントと言うからにはもらった人に喜ぶものじゃないとダメだよな。かと言って高い物はあげられないし」
そんなことを考えながら歩いていると、一つのアイディアが頭に浮かんだ。
「そうだ!手作りだ!!手作りおもちゃだ!」
そしてそれと同時に以前図工の時間に「起き上がりこぼし」というものを作ったのを思い出した。
図工の苦手なヘラコでも、あれは意外に楽に作れた。材料もゼリーの容器と粘土、画用紙さえあればいい。
よし!あれを作ってプレゼントしよう。
短くなった鉛筆や中古の絵の具より喜ばれるだろう。

そう決まれば話は早い。ヘラコは走って家に帰り、ランドセルを下ろしながら言った。
「お母さん!ゼリーある?」

コタツで丸くなりながらミカンを食べていたヘラコのお母さんは
「プリンなら冷蔵庫に入ってるよ」
と答えた。

「プリンじゃダメだよ!ボコボコしてるから。起き上がりこぼし作るんだからゼリーじゃないとダメなの!」

「じゃあ、買い物行くとき一緒に買ってくるよ」

食後にお母さんが買ってきたゼリーを食べ、その容器を使い、さっそく工作を開始した。

まず容器をキレイに洗う。画用紙を容器の裏にピッタリ合うように円く切るのだが、これがなかなか上手くいかない。図工の時間はちゃんと出来たハズなのに、今日はいびつな形になってしまう。仕方がないので、お母さんにやってもらった。
「プレゼントであげるんだからきれいに切ってよ!」
自分が出来ないことを棚にあげてヘラコは偉そうに言う。
円く切ったらそこに、面白い顔を描いた。図工のときは真面目に作らなきゃいけなかったが、今回は思いっきり面白く描いた。
それを容器の裏に張り付け、あとは転がしてもちゃんと顔が上を向くように、容器の中に粘土を入れて出来上がり。
我ながら上手く出来た、と一番難しいとこを手伝ってもらったことも忘れヘラコは満足そうにうなずいた。

翌日、予定通りクリスマス会が行われた。
そしてプレゼント交換。みんなで輪になって、音楽に合わせてプレゼントを左へ回して行き、音楽が終わったときに手元にあるものをもらえるというルールだ。

先生がカセットテープを流し、教室にジングルベルの歌が響く。子供たちもそれを口ずさみながらプレゼントを回す。みんな楽しそうだ。
音楽が止まった。
ヘラコの手元にはきれいな瓶が残った。模様の入ったガラス瓶にコルクの蓋がついているやつだ。何に使うかよくわからないが、とりあえず嬉しかった。

クリスマス会のあと教室に残り、仲のいい友だち達とプレゼントを見せあった。
小さなヌイグルミをもらって「なんだよこれ~」と言っている山本くんも
橋田くんの鉛筆が回ってきた長井くんも
ヘラコのもらった瓶以上に用途不明の犬の形の木を不思議そうに眺める吉沢くんも
みんな、口とは裏腹にやっぱり嬉しそうだった。

プレゼントの見せ合いも済み、ランドセルを背負い帰ろうとするヘラコの前に、突然クラスメートの瀬山さん(女子)が立ちはだかった。そしてヘラコの作った起き上がりこぼしを汚いものを持つように掲げ
「これ、あんたのでしょ?いらなない。返す」

あっという間の出来事だった。
「手作りおもちゃなら喜んでもらえると思ってた昨日の自分」「ゼリーを買ってきてくれ、画用紙をきれいに切り抜いてくれたお母さん」「我ながら上手く出来たと思った起き上がりこぼし」「楽しそうにプレゼントを回すクラスメートの笑顔」それらがグルグルまわり、悲しさ、寂しさ、怒り、いろんな感情がヘラコの体に湧き上がったが、一番強かったのは「仲間の前でプレゼントを突き返されるという現実」に対する恥ずかしさだった。
ヘラコはただ一点「この状況を哀れまれたくない」それだけで、返された起き上がりこぼしともらった瓶を両手に掲げ
「ヨッシャー!僕だけプレゼント2つ!」
と叫んでいた。

まわりの友達が笑っていたか、哀れんでいたか、どんな顔をしていたのか、ヘラコは何も覚えていなかった。


この物語はフィクションです。フィクションであると僕が言うんだから、フィクションとして受け取るべきです。
十数年後、ヘラコ少年は懲りもせず「相方の彼女にオリジナルのマンガキャラの手作りカレンダー」をあげるという暴挙に出たそうです。
そのときとても喜ばれたことを経験に
「プレゼントに大切なのは値段でも気持ちでも無く、渡す相手が大人かどうかだ」
ということを学んだようです。

~おわり~

サンタさんからコメント返しのプレゼント
よつばさん、俗にいう冬至ってやつらしいですね。僕はお肌とハートの弱い人間です。

ヒカルさん、お風呂ないんで銭湯通いです。風邪かわからないですが、お腹こわしました…。