Ⅰ.はじめに
前回まで、金融政策と財政政策が、景気、雇用、賃金、消費にどう影響を及ぼすか、を見てきた。
今回は、企業の設備投資に及ぼす影響を見てみる。
グラフに掲載したデータは以下のものであり、実質金利以外はすべて前年同月比である。
マネタリーベース:日銀
CPI:消費者物価指数(食品・エネルギー含む)、総務省
名目金利:10年国債利回りの月末値、財務省
実質金利:名目金利-インフレ率(CPI上昇率)
機械受注額(船舶・電力除く):経産省
GDPギャップ:内閣府掲載の四半期データを、月ベースで均したもの
Ⅱ.分析
1.13年4月~14年3月
(1)金融緩和→物価上昇→実質金利低下
この間、日銀は国債を大量に買って、お金を大量に供給し続けた(13年4月:23.1%→14年3月:54.8%)。
そのため、国債は買われ続けるので、国債の価格は上昇し続け、その分金利は低位で推移し続けた。
つまり、名目金利(10年国債利回り)は低いままであった。
そして、このようにお金が増えると、お金の価値が下がり、お金を手放してモノを買おうという意欲が人々に出て来る。
そうなると、いずれ物価が上昇するだろうという予想が高まる。
ここでは、実際のインフレ率を使っているが、プラスに転じている(-0.7%→2.1%)。
その結果、名目金利が低いままで、インフレ率が高まるので、実質金利(=名目金利-予想インフレ率)は低下していった(1.3%→-1.5%)。
(2)実質金利低下→設備投資増加→需要不足解消へ
このように、実質金利が低下したことで、企業はお金を借りて設備投資しやすい環境が整って来た。
その結果、機械受注額(船舶・電力を除く)はプラスに転じ増加していった(-1.1%→16.1%)。
実際には、バブル崩壊後デフレ継続の中で、企業は負債の返済を優先し、大幅な設備投資をせず、内部留保を貯め込んできた。
そのため、いきなり借金をせず、まずは貯め込んだ資金を使って設備投資することになる。
それでも、借金にせよ自己資金にせよ、設備投資をしようという動きに変わりはない。
こうして、設備投資という需要が増えていったことで、需要不足も解消に近づいた(-1.7%→-0.4%)。
つまり、金利は低いままなのに、物価上昇の見通しが出てきたため、「わざわざ設備投資してモノを作っても儲かるだろう」という状況になり、設備投資が増えていき、需要不足も解消されていった、ということである。
2.14年4月~14年10月
(1)金融緩和縮小+消費増税→物価低迷→実質金利上昇
ところが、14年4月以降、日銀はお金を増やすペースを落とした(14年4月:54.8%→14年9月:35.3%)。
さらに政府は、消費税率を5%から8%に引き上げたため、個人が使えるお金も減ってしまった。
その結果、上記とは逆のことが起こった。
日銀が国債を買い続けてはいるため、名目金利はそれほど上昇はせず、低いままだった。
しかし、今後物価は下がっていくだろうとの見通しが出てきて、実際のインフレ率も低迷していった(2.1%→3.7%と上昇しているが、これは消費税率引き上げ2.0%分の影響である。それを除けば、2.1%→1.7%と下がっている)。
名目金利は低いままだが、インフレ率が低下したため、実質金利の負担は重くなった(-1.5%→-3.2%と低下しているが、これも増税分を除くと-1.5%→-1.2%と上がっている)。
(2)実質金利上昇→設備投資減少→需要不足拡大へ
このように、実質金利の負担が重くなったしたことで、企業は設備投資しにくくなった。
その結果、機械受注額の増加はペースダウンしてしまった(16.1%→7.3%)。
そのため、設備投資という需要も落ち込み、需要不足は再び拡大してしまった(-0.4%→-2.8%)。
つまり、金利は低いままだが、再びデフレ懸念が出てきたため、「設備投資してモノを作っても、やはり売れないだろう」という状況になり、設備投資の意欲は減退し、需要不足が拡大してしまった、ということである。
3.14年11月~
ということで、10月末に日銀は追加の金融緩和を決め、政府もさらなる消費増税の延期を表明し、以前の好循環に戻ろうという判断を下した、ということである。
Ⅲ.まとめ
世の中全体のお金を増やし、個人の手元にお金を残せば、お金を使ってモノを買おうとする動きが出て来る。
そうなると、企業は低金利のままで設備投資をしてモノを作り、売って儲けられるようになる。
そうして、国家全体での需要不足は解消されていき、景気は回復してデフレからも脱却できる。
だからこそ、日銀と政府がお金を増やす政策をとるかが極めて重要なのである。