朝、目覚めると、カーテンの隙間から、ゆるやかな朝日が差し込み、ちらっと飛行機雲が見えた。カーテンを勢いよく、開くと、まぶしい太陽。そして、真っ青の空と、高い位置に立体感のある雲があった。いい天気だ。昨日の残りの朝ごはんをほおばり、かばんに荷物を詰め、足早に車に乗り込んだ。軽快なエンジン音とともに、家を後にした。
2つのラウンドアバウトを通り抜け、いざ高速へ。分岐点で、いつもとは違う道へ。はやる気持ちを抑えられず、スピードメーターはすぐに上限速度の120kmへ。ブリュッセルからアントワープへ。アントワープからロッテルダムへ。
見渡す限り、山は一つもない。真っ平らだ。草原の先に地平線がある。高速道路に沿って、整然と、等間隔に木々が並んでいる。木々だけじゃない。風車だ。風車も等間隔に並んでいる。人工的に作られているはずだが、全く不自然じゃない。自然と調和している。
あまりにも広い草原に、小さく黒点のように見えるのは馬、小さく白点のように見えるのは羊。スケールが違う。日本とはスケールが違う。ヨーロッパの大きな大地を感じる。
途中、高速道路のパーキングで一休憩。ちょっと予想はずれの甘いコーヒーを片手に、また走りだす。しばらくして、ナビが「take the exit」。ここから下道へ。今日の最初の目的地はキューケンホフ公園。世界最大のチューリップ園だ。さすが、ベストシーズン。結構、渋滞している。でも、そんなに気にならない。
オランダは国土の4分の1が海抜0m以下。水とともに生きている国である。車からのぞく景色も、川、湖と陸地の高さの差がほとんどない。ちょっと増水したら、すぐに水に浸かってしまうだろう。
そうこうしている間に、キューケンホフ公園に到着した。日本でチューリップといえば、淡路島。そこと比べてどうだろうか?チケットをにぎりしめ、いざ、公園の中へ。
そこには、赤、ピンク、黄色、白、さまざまな表情のチューリップ。草原、木々、茎の緑。眩い青空に、純白の雲。輝く小川に反射する景色。黄金の太陽のもと、ゆっくりと雄大に回る風車。公園を取り巻く小川の先に果てしない花畑と地平線。あまりの美しさに、立ち止まっては見とれ、立ち止まっては見とれを繰り返す。
名残惜しくも、キューケンホフ公園を後にし、キンデルダイクの風車を見に行った。風車の写真はもうアップしているので、この辺にしよう。どこを見ても、オランダの川と大地の差はほとんどない。そして川は真っ直ぐに整備されている。ここでも人口物が自然物に完全に溶け込んだ世界がある。
ベルギー、オランダの4月中旬頃には、もう、20時くらいまで、十分に明るい。まだ、どこかに寄れそうだ。ガイドブックをぱらぱらとめくり、目についた場所。ドルドレヒトの聖母教会。ほとんど、思い付き、ひらめきだが、車に乗り込み、手慣れ始めた手つきでナビに行く先を設定する。
高速を使わずに15分くらいでつきそうだ。と、その時、橋の手前で渋滞が発生している。じれったく思いながら、ふと、遠くに目をやると、そこには垂直に道路が切り立っている。思わず、携帯を手に取り、カメラモードへ。生まれて初めてみた。巨大な道路が垂直方向に向いている。別の意味で、相当、驚いた。
10分以上は待っただろう。ようやく、橋が元に戻り、再度、出発。あとは、スムーズに進み、ドルドレヒトに到着した。「さて、ここを左か・・・」。ドルトレヒトの中心へと続く、最後の道を曲がったとたん。道路が石畳へと変わった。小刻にみ揺れる振動が心地よい。なんともヨーロッパらしい町並みだ。中途半端に都会よりも、昔ながらの光景がそのまま残った町の方が、はるかに心穏やかになる。もともと、人が多いところは好きじゃない。
グランプラス、サンミッシェル聖堂、キューケンホフ、キンデルダイクの風車群。どこもよかったが、個人的には、一番気に入った。2つ、3つ曲がったその先には・・・、聖母教会が。いままで見た中で一番大きいだろう。高さ108mの巨大な教会が姿を現した。すぐ近くに駐車し、中をのぞいた。
サンミッシェル聖堂も良かったが、人が多すぎた。聖母教会の中は静かで、イスに座り、祈りをささげている人がいる。あまりにも静かだ。これでこそ、教会。ステンドグラスから差し込む光は教会をゆるやかに照らし、心があらわれていくようだ。
この教会は、てっぺんまで登れるらしい。急な斜面のらせん状階段をひたすら昇る。500段近くあるらしい。まるで、ゲームの世界だ。レンガ造りの重厚なつくりに、木でできたドア。どこかに宝箱でもありそうだ。モンスターが現れるんじゃないか?急な階段を500段。日頃、運動不足の自分には、かなりきつい道のりだ。呼吸が荒くなる。途中、すれ違った人が、あとちょっとだ!がんばれ!と励ましの声をかけてくれた。最後の階段を上がり切ったところで、足をつってしまった。5分ほど座り込み、最後の扉をゆっくりと押し始めた。
ドアの隙間から、驚くほど、強い風が吹き込み、目が開けていられない。目をつむった状態でドアを完全に押し広げ、少し、風が落ち着いたところで、目を開いた・・・。
そこには、ドルトヒレトの壮大な、懐かしくもある街並みが眼下に広がった。もともと高いところは得意ではないうえ、108mはあまりにも高すぎる。ついさっき、つった足のせいだろうか、足の震えが止まらない。腰は完全に引けている。体はついていかないが、脳はこれまでにない爽快感を感じている。
まさに、水の都、オランダにふさわしい光景ではないだろうか?カラフルなレンガが町を彩り、入り組んだ川に、小さなヨットがたくさん並んでいる。今日は本当にいい天気だ。ドルドレヒトの町を引き立てている。
ヨーロッパは広い。自分が見たのは、まだ、ベルギーとオランダの一部だけ。約3か月の長期出張の休みを利用し、どこまでヨーロッパを感じることができるだろう。ふるさと日本を離れ、はや2週間。いままで見たことのない世界が眼前に広がっている。
そして家路へ。家に帰ってからも、冷めやらぬ興奮があった。ガイドブックをさらにぱらぱらとめくる。東はドイツ、南はフランス。簡単に国をまたぐことができるヨーロッパ。この3か月、仕事はもちろんがんばらないといけない。でも、この3か月、どこまでヨーロッパをかけめぐることができるだろうか。









