2025.11 上野deピアノを聴く
東京文化会館小ホールで毎月開かれる「上野deクラシック」Vol.113は、東京音楽コンクールピアノ部門入賞者の4人が順にピアノを演奏する企画である(ポスターweb転載)。

1番手の藤平実来氏は第20回東京音楽コンクールピアノ部門第2位で、東京音楽大学ピアノ演奏家コース卒、同大学院修士課程を首席卒業、同大学の演奏研究員を務める若手で、
バッハ作曲「カプリッチョ 変ロ長調 最愛の兄の旅立ちに BWV992」と「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 ニ短調 BWV1004より第5曲シャコンヌ(ブゾーニによるピアノ編)」を演奏した。
カプリッチョcapriccio(イタリア語で気まぐれの意味)は、17世紀の自由なフーガ風の鍵盤音楽、19世紀の気まぐれな性格の器楽小品の意味だそうで、奇想曲と訳されるらしい。
ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685-1750)の長兄も音楽家でスウェーデン王に随行する旅に出るとき、
1曲目、旅を思いとどまらせようとする友人たちのやさしい言葉、
2曲目、他国で起こるかもしれないさまざまな不幸の想像、
3曲目、友人一同の嘆き
4曲目、友人たちが集まり別れを告げ、
5曲目、郵便馬車の御者のアリア、
6曲目、郵便ラッパを模したフーガ の6曲構成を作曲したそうだ。
予習復習しても、藤平氏がどの部分を演奏しているのかは分からなかったので、ピアノに耳を傾けることにする。
シャコンヌとはスペイン・バスク語の酷いといった意味だそうで、官能的な舞曲を起源とし、バロック時代に3拍子の変奏曲として作曲されたそうだ。なるほどなるほどと、藤平氏のシャコンヌを聴く。
2番手・今田篤氏は第11回東京音楽コンクールピアノ部門第2位だから今日の4人のなかでは年長者、2016年世界三大コンクールの一つ、ベルギーのエリザベート王妃国際音楽コンクールファイナリスト入賞し、国内外のオーケストラと共演し、CDもリリースしていて、現在、東京芸術大学音楽学部ピアノ科、名古屋音楽大学非常勤講師を務めている。
演奏は、ベートヴェン作曲「ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調Op.53 ワルトシュタイン」である。
ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)が1804年に、この曲をフェルディナント・フォン・ヴァルトシュタイン伯爵に献呈されたことからヴァルトシュタイン、またはワルトシュタインと通称される。ヴァルトシュタインはベートーヴェンの才能に経済的援助を行うとともに精神的な支えにもなり、1792年、ウィーンにたつとき、ベートーヴェンに「モーツァルトの精神をハイドンの手から受け取りなさい」と伝えたそうだ。
軽やかなリズムの序奏が始まる。今田氏のワルトシュタインに耳を傾ける。耳学問では、ソナタ形式は序奏に続いて主題が提示され、主題が展開し、主題が再現され、結尾へと展開するそうだが、学問は棚に上げて今田氏のピアノに耳を傾ける。
3番手・中島英寿氏は第20回東京音楽コンクールピアノ部門第1位及び聴衆賞を受けていて、藤平氏とともに若手である。桐朋学園大学音楽学部ソリスト・ディプロマコースを修了し、海外公演にも出演、国内外でオーケストラと共演している。
曲は、シューマン作曲「交響的練習曲Op.13」である。
ロベルト・シューマン(1810-1856)はドイツ・ロマン派を代表する作曲家で、ピアニストを目指していた1832年に指を痛めて交響曲の作曲に専念し、~1834年に交響的練習曲を作曲する。そのころのちの1840年に結婚するクララとへの思いが交響的練習曲作曲にも込められたのかも知れない。
一つの主題を、リズム、拍子、旋律などをさまざまに変形させていく変奏曲形式で作曲されているそうで、演奏するピアニストがシューマンの意図を読み解きながら自分の思いや技量で演奏を高めていくことが出来ると説明されても???、ひたすら高みを目指してピアノを弾く中島氏の演奏に耳を傾ける。
4番手の西村翔太郎氏は第14回東京音楽コンクールピアノ部門第2位及び聴衆賞に選ばれていて、今田氏に続く年長者になる。東京芸術大学、同大学院を首席で卒業して渡欧、イモラ国際ピアノアカデミーを修了、国内外のコンクールピアノ部門で入賞、現在、東京芸術大学、桐朋学園大学、大宮光陵高校、桐朋女子高校の講師を務める。
3人はドイツの作曲家のバッハ、ベートーヴェン、シューマンの曲を弾いたが、私はロシアの作曲家であるラフマニノフ作曲「楽興の時 Op.16」を弾きますと前置きして演奏に入った。
「楽興の時」はセルゲイ・ラフマニノフ(1873-1943)が1896年に作曲したピアノ曲で集で、6つのピアノ曲の組曲である。
そのころラフマニノフは経済的に困窮していたらしい。交響曲作曲中にこのピアノ曲集を作曲して好評を得て、一息できたようだ。
組曲だが、それぞれの主題は独立していて、第1番は内省的な旋律で始まり激しいクライマックスへ向かい、第2番は技巧的な小品で、第3番は「葬送行進曲」や「哀歌」と評される悲しみに満ちた旋律、第4番は情熱的な旋律の爆発、第5番はバルカローレ(舟歌)形式による穏やかな中間部、第6番はマエストーソ(=堂々と、荘厳に)」で壮大に曲集を締めくくる、との解説を復習した。
演奏の始めにそこまでの解説がないので、西村氏の静かな演奏が次第に高まり、穏やかになり、激しくなり・・の旋律に目を閉じ、耳を傾け集中する。
年長者は経験の差だろうが若手よりも落ち着いていて、演奏も軽やか、伸びやかな感じがする。
アンコールに、4人が横並びで座ってピアノを弾いた。曲名は聞き漏らしたが、窮屈そうにしながら4人が調子を合わせ楽しそうにピアノを弾いていた。日ごろから仲がいいのであろう。互いに切磋琢磨し大成されるようにと大きな拍手を送った。
一人30分ほどの演奏で、2時間を超えた。小ホールを出ると日がだいぶ傾いているのでどこも寄らず家路についた。
夕食時にプログラムを見ながら4人の演奏を思いだし、ビールを傾けた。ときどきwebで復習したり、4人のピアノはビールよりもワインが合いそうなどと思ったり、余韻を楽しんだ。
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