前話のまとめ・・・
普通の大学2回生の僕は隣の部屋に引っ越してきた「西野」という女性に人生で初めての一目惚れをしてしまう。
あれから3日が経った。この3日間、家を出るときは隣の部屋からあの子が出てこないかなぁ、と思うのだが、なかなか神様は僕に味方してくれない。それに今日は長い長い春休みが終わり、2回生としての生活が始まる日だ。しかし、相変わらず彼女の事が頭から離れない。
「どーしたもんかねぇ~。」
そうこうしているうちに大学に行かなければならない時間になった。
授業が始まる5分前に大学の教室につくと、大講義室の1番右後ろのいつもの席に見慣れた顔の友人達がいた。
授業に出席はしているものの、内容は全く頭に入らず教授の話は右から左へと抜けていく。
彼女の事が頭から離れずモヤモヤしながらも今日最後の授業である4限目が終わり、バイトへ向かう。
アルバイト場所は近所のとんかつ屋。この町で43年間地元の人たちに愛されている老舗だ。学生のアルバイト以外は70歳を過ぎたマスターしかいない。
しかし、マスターの人柄の良さからか店内はいつも繁盛している。
今日も僕は息をつく間もなく働いていた。
忙しいと時間が進むのが早い。あっという間に時刻は8時を過ぎており、アルバイトが終わるまで1時間を切っていた。この時間帯になると客足も落ち着き、仕事もある程度気を抜きながらこなしていた。
すると、ドアに括り付けてある鈴の音が僕の耳に入った。
客が来た合図だ。
僕は皿洗いをしていたが、顔を挙げて客の顔を見た。その途端いっきに心臓の鼓動が早くな
る。
「い、いらっしゃいませ」
焦って噛んでしまった。
なぜなら、その客は405号室の「西野」さんだったからだ。
山吹色のセーターに茶色っぽいロングスカート。頭には赤っぽいベレー帽をかぶっている。シンプルな服装だが、その色使いでおしゃれなのが一目でわかる。
彼女は僕を認識したのか、大きなくりくりとしたきれいな目の焦点を僕に合わせ、少し微笑んだ。
一瞬見とれてしまったがすぐに我に返り、頭を仕事モードに切り替えた。
いまは仕事に集中しなければならない。
僕は彼女を席に案内して、メニューを渡してカウンターの中に戻った。
しかし、頭は仕事モードだが、心臓のドキドキはおさまってはくれない。洗い物をしながらも視線は彼女へと無意識に向かってしまう。
彼女が食事を終えて店にいなくなった後、僕はお釣りを渡す時に一瞬彼女の細い指先が僕の指先と触れ合ったことに感動していた。
―神様ありがとぉ!!この店で働いててよかったぁ!―
つい顔がニヤけてしまう。するとマスターが
「なんでにやけてんの?まさかお前のコレか?」
とニヤけながら小指をこちらに向けている。
「そんなわけないでしょ(笑)」
と返すが、僕は心の中で
―ほんとにあの子が彼女だったらな~―
と夢にもないことを願う。
バイトを終えて、自転車にまたがり、今日のうれしい出来事を思い出し、ぼーっとしなが家までの道をゆっくり帰る。顔にあたる春の風がとても心地よく感じる。
5分ほどでマンションに到着する。4階までエレベーターで上り、渡り廊下に出る。
すると、405号室の前に彼女が困ったような表情で立っていた・・・
つづく、、、、
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