「チュンソク班長、ヨンさんとウンスさんってどうなんですかね?」

 

「どうって?」

 

「いや・・・単刀直入に言っちゃうと、なんで結婚しないのかな~って」

 

「ああ、まあ・・・彼らの場合は特殊だからな。色々思うところがあるんだろう。外野が騒ぎ立てるのもどうかと思うが?」

 

「わかりますよ?うん、それは勿論。色々考えることがあることも承知です。でも、なんかな~~~勿体ないというか、正式というわけにいかなくても、せめて結婚式だけでもしないのかな~って」

 

「何でお前がそんなこと気にするんだよ」

 

「否、逆に聞きますけど、班長は気にならないんですか?」

 

そうトクマンに言われて、二の句が付けなくなる。

確かに気になる。クリスマスにバレンタイン・・・・数あるイベントの度に「いよいよか?」と我ら一同、勝手ではあるが身を構えたのは確かだ。

 

あの二人ほど、理想のカップルは無いのではないか?と誰もが認めるほど仲睦まじい二人。

本人たちもきっと、その気持ちに揺らぐものはないだろう。

しかしその一方、表家業の付き合いでここを訪れる者の中には、ヨンさんとウンスさんそれぞれに、果敢に言い寄る者が少なくはないのだ。事情を知らぬのだから致し方がないのだが、片方にその話が持ち上がる度に相手は機嫌を損ない、それを宥める羽目になる我らの苦労も少しは承知して欲しい。

 

「一層の事、長老様に提案していただくのは如何でしょ?」

 

「しかし、これは非常にデリケートな問題だからな。本人たちから何かアプローチでもあればいくらでも乗れるんだが・・・・」

 

「そういえば・・・・・」

 

部屋の扉に手が掛けられる寸前で止まる人影に二人は気が付かない。

 

「チョル物産のチョヌムジャさん、ウンスさんに一目ぼれしたって噂をご存じで?」

 

「ああ、それ、結構マジみたいだぞ?あそこは結構財界とのパイプが大きくて、あまり無碍な態度に出られないって、トルベ営業部長が溜息を付いてたよ」

 

「まあ、あの人なら上手く話を持って行くでしょうけど。だけどな~~いつまでこれ、続くんでしょうね。先週はヨンさんの方でしたし」

 

「二人が天門を潜るか、結婚を公表するまでか?」

 

「まさか・・・待ちくたびれて破局!なんてこと、ないでしょうね?」

 

「縁起でもない事言うなよ!余計な憶測するくらいなら、天門でも開けてこい」

 

ガラッ!!

 

扉が異様な音を立てて開くと同時に二人の視線が勢いよく入り口に向かう。

 

「あひぁっ!・・・・ヨ・ヨンさん、お昼は終わったのかな~?」

 

「お先に頂きました。お二人はこれからですか?・・・・それよりも何かありましたか?顔色が・・・・」

 

「な・何にもないぞ?さあ、腹が減ったな~トクマン、昼飯に行こう」

 

「はい!じゃ、ヨンさん電話番ヨロ~~~」

 

慌てて部屋を出ていく二人に、小さくため息を付いたヨン。

 

どこから聞いてたと思う?

怖くて考えられません。

聞いてたよな?

多分・・・あのチェヨンですよ?誰よりも洞察力に優れているんですから。

ああ、余計な話をしちまったな・・・・・

 

 

ウンスには、誰よりも幸せになってもらいたいと願っているのに。

その願いを叶えてやれるのは俺だけだと言ってやりたいのに、実際、ウンスの心の底に隠された想いに気が付いてやれなかった。

 

「高麗に戻ったら」

 

正妻として崔家に迎え入れよう。

高麗一の花嫁衣裳を作り、それを纏うウンスの姿はきっと天女の様に美しいだろう。

家族を作り、沢山の子供に囲まれて・・・・・そんな風景を想像してた。

 

俺が一人で勝手に決めていた。

 

だが、それは「いつ」訪れるというのか。

明日なのか、それとも10年先なのか・・・・・・

 

任務遂行中である今、私事を優先するなどもってのほか。というのが武士であれば当然なのだが・・・・。

 

俺はウンスに出会い、情を交換し合ったのだ。

動いてしまった心はもうどうすることも出来ず、想いのままにここまで来て・・・

なのに、己の道理をウンスに押し付けるつもりなのか?

 

この半端な関係のまま訪れるはずの幸せを置き去りにして、ウンスから輝きを奪うのか?

 

そんなことにも気が付かない程に、俺はあなたのやさしさに甘え過ぎていたんだ。

純粋な心や思いやりがあなたをより美しく眩しい姿で俺の瞳に映る。

もう既に答えなんて決まっていたではないか。

後回しなんて俺らしくない。「正面突破」が俺の信条だったという事を、幸せボケで忘れかけていた・・・・

 

 

一方、その頃ウンスはといえば・・・・・

 

「あら先生、何の雑誌を見ているんですか?」

 

「ああ、ハルさん。先日来たお客様の忘れ物なのかな?ホールの机に置いてあったの」

 

「まあ♪それ、ウエディング雑誌じゃないですか」

 

そういって、ハルがウンスの隣に座り冊子を横から覗き込む。

 

「これなんか、先生に似合いそうですね」

 

「ええ~そう?ちょっと可愛すぎじゃない?私の年を考えて言ってる?」

 

「何を言っているんですか。絶対にお似合いですよ。でも、色々ありますよね~先生はどんなデザインがお好みですか?」

 

「そうね~~あ、これはどう?」

 

「わぁ、いいですね。前面はシンプルに胸元にギャザーを寄せたすっきりとしたAライン。先生はスタイルがいいからマーメードもいいかなとも思いましたけど・・・・ロングトレーンに美しい刺繍。アクセントにリボン。いいですね」

 

「ふふふ。やっぱりウエディングドレスは憧れるわよね~。見ているだけでワクワクしちゃう」

 

「着ないんですか?ドレス。色々複雑な事情がおありなのは存じ上げていますけれど、先生の気持ちはどうですか?我慢せずに素直になってみたら、あの方の事です。きっと先生の気持ちを上手く救い上げてくれると思いますよ?」

 

そう言って、ハルは部屋を出て行った。

 

ウンスは雑誌を閉じて立ち上がると、窓を開けて深呼吸をした。

 

ヨンへの想いは確かにこの胸の中にあり、添い遂げるのならばあの人しかいないと思ってる。

でも、「今」それを望んでもいいのかしら・・・・・

言葉に出してみてもいいのかな。

彼の負担にならない?

どうやって伝えればいい?

どう形にすればいいのかな。

 

心も体も・・・・

もう互いに離れる事なんてできないよね?その気持ちだけがあれば、形なんてどうでもいいって思ってた。・・・いえ、思う様にしてたのかな。

 

私もお年頃。好きな相手がいて将来を思い描いたら・・・・

離れる事なんてできないから、あの人が行く場所には何処へでも付いていくの。

例え、それが大昔の高麗であってもね。

でも、あっちに行ってしまう前に、出来たら両親に花嫁姿見せてあげたいって思う。

それに、憧れのウエディングドレス、袖を通してみたいな。あっちじゃ絶対無理でしょ?

ただきっと私、この一歩を踏み出してしまったら、もう心の歯止めが利かなくなってしまうかもしれない。

夫婦になれたら、今度はきっと子供が欲しくなる。

 

分からない。どうすることが正解なのか、一人じゃ答えが出ないよ。

目の前にあるモノを遠ざけて、いつまでも「その日」を待ち続けて・・・・

このままで私たちは後悔しないかな。おばあちゃんになっちゃうかもしれないよ?

 

真摯で純粋なヨン。

全てのタイミングが嵌るのか、それとも外れるのかは神様でもきっと分からない。

その時、ヨンの信念が捻じ曲げられてしまうのが怖いのよ。

大きな岐路に立つことになった時、私はヨンの腕をとることが出来るのか、それとも背中を押すことになるのか。

私が今の状態から一歩足を踏み出せない理由は、そこにある・・・・・

 

 

先日雪が降ったと思ったら、春一番に花粉が飛ぶ・・・・

今年、早くありませんかね?

 

梅の花も咲き始め、いよいよ春の到来♪

とは言っても、まだまだ朝晩の気温は低く、早春というところでしょうか。

玄関に農家さんのお店で購入したストックを花瓶に挿しているんですけれど、こちらもいい香りで♡

 

 

香も届けられたらいいのだけれど・・・・・

小さな春のおすそ分け♡