「ウォンジク・・・・遠いところまで足労、すまぬ。だが、もうそなたしか託せるものがおらんでな・・・・・」

 

「何を気弱な事を申すのだ。しっかりと致せ」

 

「いや、これでも俺は医者だ。己の天命はわかっておる。ただ、心残りのままでは旅立てぬから・・・・・・そなたには、大きな荷物を背負わせてしまうことになるが許して欲しい。この恩は、来世で必ず返すから・・・その時まで待っていてくれまいか・・・・・すまない。頼まれてくれ・・・・・」

 

「そなたの望みなら、喜んで受けよう。私こそ、そなたに受けた恩義を今ここで返すことがやっとできるのだ。だから気に病まなくても良い。頼むからすまないなどとは思わないでくれ」

 

ウォンジクが、病床に伏せる男の手を握りしめ約束の意志を示すと、男は安堵の顔色を浮かべた。

 

「ウンス、ここにおいで」

 

名を呼ばれ、小さな子が父の横にちょこんと座る。

 

「いい子だウンス。・・・・・私が最後にお前に残してやれることだよ。・・・・・・さあ、その小さな手をここにあててごらん」

 

そういうと、子の手をとり、自分の手首に触れさせた。幼子は、これから父が何かで遊んでくれるのではと、興味深々に父の手首と顔を交互に見つめる。

 

「どうだ?そこに何かが隠れているかな?」

 

「ととしゃま、隠れんぼうでしゅか?こんなとこに、何を隠したの~?」

 

子は、父が何か秘密の宝物でも隠しているのかと、見えぬ自分の指の下の父の腕の中を探るように、神経を集中し始めた。

 

「ととしゃま!・・・・・ぴくぴく動いてましゅ。ととしゃまのお胸の音とおんなじだよ?・・・・・・何を隠したの?」

 

ウンスは新しい発見に、目をキラキラと輝かせたが、次の父の言葉にその顔も次第にしかめっ面に変わっていった。

 

「ウンスや、それは父が生きているという音だよ。よくわかったね。そうだ、父の胸の音と同じだよ。いい子だ・・・・・・そして、その音が聞こえなくなったら、父は母さまのところに行かなくちゃならないんだ・・・・・・・ウンス、ずっと覚えていておくれ。それは大切な命の音だよ」

 

「ととしゃま~?ははしゃまのところに遊びに行くの?ウンシュも行きたい。一緒に行く~~~ととさまのピクピク、もう終わる?」

 

「そうだね、もうすぐ音が止まるよ。・・・・・・・・でも、ごめんよウンス、今回は連れて行ってはあげられないんだ。ウンスはいい子だろう?少しだけお留守番しててくれるかな。隣にいるウォンジク叔父さんと一緒に待ってておくれ」

 

「なんで~~~~ウンシュ、いいこだもん。なんで一緒、だめ~~~?ウンシュも、ははさまに会いたい」

 

「ウンスや、ごめんよ。天の神様がそれを許してはくれないのだよ。まだ小さいお前を残していく父を許しておくれ」

 

「や~~~~、じゃあ、じゃあ、ととさまのピクピク、ずっとず~~~~~と動いてないと嫌~~~~~」

 

父の言うことが分からない。でも、言い知れぬ不安に襲われるウンスは必死に父に縋り付いた。

 

「ととしゃま・・・・うっく・・・・・ととしゃま~~~~お手ての隠れんぼう、ウンシュもうわかんないよ・・・・えっく・・・えっく・・・ととしゃま、おきて~~~~」

 

半狂乱になるウンスを、意識が飛びそうになる中、最後の力を振り絞り、己の胸に引き上げ抱きしめた。

 

「ウンス・・・・・・泣かないでおくれ。父は笑顔のウンスが大好きだよ・・・・・・・必ず迎えに来るから・・・・・・・笑って・・・・ウンス・・・いつも笑って・・・・・・」

 

大好きな大きな手が、ウンスを抱きしめ頭を撫でる。

少しづつ落ち着きを取り戻していくウンスに、父の安堵のため息が大きく吐かれた。

 

「ととしゃま・・・・・・・いい子にしてたら、お迎えにくる?」

 

「ああ・・・・・きっと・・・・・・母・さま・・と・・・・・・・一緒に・・・・・・・・・・・・・」

 

父の手が力なくウンスの身体から離れる・・・・・・・

さいごの時をみとったウォンジクは、その場で頭を下げ黙とうをささげた。

 

「ととしゃま?・・・・・・・・ととしゃま・・・・・・・・どうしたの?おむね・・・・・・・聞こえないよ?ねえ、おじちゃん、なんで~?ととしゃま、ねちゃった?」

 

「ああ、そうだ。ウンスや、父様はとても疲れたのだよ。いつも忙しく働いていたから・・・・・・・そっと寝かせてやろう。これから遠いお国に出かけなくてはならぬから・・・・・さあ、お前も少し眠りなさい。こっちにおいで、だっこしてあげよう」

 

何度も家に訪れていたウォンジクに懐いていたウンスは、躊躇することなくその胸の中にすっぽりと納まった。

 

幼子には、まだ今目の前に起こったことを理解するのは無理というもの。それでも、何かを感じているのだろうか。ウォンジクの胸衣をしっかりと握りしめ、小さな涙の粒を目じりに浮かべながらウンスは目を瞑った・・・・・・・

 

小さなウンスを抱きしめながら、この子を置いて旅立つ友の無念に胸が痛くなる。

残されたものの悲しみ、苦しみを誰よりも知ってるからこそ、この胸の中の小さな温もりが愛おしくなる。

 

我が友よ・・・・最後までなんとあっぱれな男。何故神はこれほど惜しい人を召し上げられたのか・・・・・・

今、側にまだおるか?

お前の宝物は大切に育てると誓う。

だから安心して旅立たれよ。

再びそなたと出会う時、笑顔で酒を酌み交わせるように・・・・・・・

 

 

 

・・・・・さあ参ろう、ウンス

 

どこ?

 

私の屋敷だよ

 

いや~ここにウンシュいる。ととしゃまとははしゃまをここで待ってるの。ここがウンシュのおうちだもの。ここからいなくなったら、うんしゅ、みつけてもらえないよ~~~~

 

ここに一人でいるのは寂しいぞ。それに父様は私と共に留守番をするように言っておったであろう?おお、そうだ。我が屋敷には、ウンスと同じ頃の息子がおるから、一緒に遊んでやってはくれまいか?

 

おとこのこ、いるの~?

 

そうだよ。ヨンって言うんだ。きっとウンスと仲良しになれるよ。それに、ヨンも母上のお迎えを待っているんだよ。

 

待ってるの?

 

そうだ。ウンスと同じだよ。

 

ウンシュと同じ?

 

そうだ、同じだ。だから、寂しくはないだろう?

 

小さな腕を組み、小首をかしげて暫し思案するウンスの姿に、ウォンジクは幼子のおちゃめさに微笑んだ。

 

うん!オジュおじしゃま、一緒にいく~。いい子にして・・いっしょに、まつ~~~

 

 

 

こうしてウンスは、ウォンジクと共に開京に向かって旅立ったのだった・・・・・・

 

 

こんばんは。

今夜はウンスの登場でした。

多分、今回の展開は予想外だったのではないかと・・・・・・

何でもないご近所さんというのも想定したのですが、やっぱりウンスの芯の強さ、命への執着の根源は何処から・・・のきっかけを作りたく、

この話になりました。

まだ小さいウンス。深刻にはそれを感じてはいないと思います。でも、心の奥底できっとそれは芽吹いているはずだと。

 

ちょっと重い話になった2話でしたが、明日はいよいよヨンとウンスのご対面です♪

これからはちびっこパワー全開で行ける・・・・はず?( ´艸`)

 

 

それでは皆様、今日も素敵な1日でありますように(⋈◍>◡<◍)。✧♡