事務所には、救急専用の直通電話があります。
通称、「 赤電 」 。
救急隊からの搬入要請が救急車から、本部から
ダイレクトに入ってきます。
新米の頃は「 救急当番 」と言うのがあって
救急室に立会い、救急隊からの患者さんの
データや、付き添いのへのフォロー、
救急室内でのクラーク業務を行うのです。
救急室への長い廊下を
パタパタ救急ノートを持って走る時
「 ER 」とか、
「 救命病棟24時 」ばりの 緊張感があります。
同僚などは、
この「 救急当番 」をたいそう嫌がっていました。
簡単な縫合や、処置、はココですべて済ませてしまうので
かなり、ショッキングな場面も多数だからです。
吐物、汚物、流血、露出・・・・・・・。
匂いも生々しいですからね。
その点、 業務をサボりたい 勉強熱心、好奇心旺盛だった私は
いの一番に救急室に駆け込む役を買って出ていました。
そのおかげで、新米たちを束ねる立場になっても
まだ、救急室に走るわけです(笑)
ある日の搬入患者さんはうちの常連さんでした。
看護婦さん 「 今日は誰やろ。」
yong-yuan 「 お疲れ様です。患者様はウチの常連さんみたいです。 」
ドクター 「 だれ? そんなに有名なの? 」
今日の担当の先生は、まだ救急当番をしたことのない
先生でした。
yong-yuan 「 ○○さんです。 」
看護婦さん 「 え~~??またかいな??あのラムネの・・・? 」
ドクター 「 ラムネ・・・・? 」
と、救急車のサイレンの音が近づいてきました。
外は小雨の降る、夕暮れ。
救急隊から、患者データを受け取り、
搬送完了の証明のサインをして渡します。
yong-yuan 「 お疲れ様でした。 」
救急隊員 「 毎度毎度、大変だろうけど・・・。 」と、ボソリ。
搬入されたこの方、Oさんは
救急隊泣かせの常連さん。
駄菓子のラムネやら、ビタミン剤のタブレットを大量に
口にほおりこんでは
「 す、、、睡眠薬飲んじゃった・・・・死にたい・・・・ 」
そんじょそこらの大きな病院だと
第一次救急・第二次救急と重症患者さんを
優先的に受け入れるので
ウチのような中小の第三次救急体勢の医療機関では
たいそう有名なお方です。
看護婦さん 「 何飲んだの??? 」
↑たとえ常連でも、『 またラムネ飲んだの?? 』と聞かないところが
さすが、看護婦さん!スバラシイ・・・・。
ぼ~~っとしつつ、うつろな目で
手術灯をみつめる、Oさん。
Oさん 「 フー、フー、く、くるしいよお・・・。
しにたい・・・よう・・・・・。
○△◎×■米・・~~~~~ 」
( ラムネで意識朦朧・・・・・。 )
看護婦さん・ドクター 「 Oさ~~~ん、分かりますか~?
何を飲まれたんですか?何の薬??? 」
ドクター 「 お口みしてね。 あ~なにこれ、たくさん飲み込んだねえ。
かなり噛み砕いたのか、口中真っ白だ。
あれえ、???甘い匂いがするなあ・・・・。これって・・・
yong-yuan・看護婦さん 「 ら、ラムネです (たぶん) 」
ドクター 「 エエ???ら、ラムネ?? 」
Oさんは、こうして虚言で救急隊を呼びます。
ラムネと白状すれば、少し休んですぐ帰ってもらえるのですが
今日は、初めて対応する先生だとわかって
なかなか、口を割りません。
もしかして、何かのサプリメントだったりしたら
成分をメーカーに問い合わせないといけないし、
本当にお薬も飲んでいたら、危ないことになる。
というわけで、看護婦さん、脅しの作戦にでました。
看護婦さん 「 Oさん、胃洗浄しましょうね 」
Oさん 「 フーフー・・・・くるしいよう・・・ 」
看護婦さん 「 先生!胃洗浄しましょう!!!
口から管つっこんで、出しちゃいましょう!! 」
Oさん 「 い、いせんじょう・・・・? 」
ばっとOさん、飛び起きた。
Oさん 「 な、治りました。帰ります。 」
看護婦さん 「 何言ってるの?あんなに意識が朦朧としていたのに!
胃洗浄して内容物を検査にだしますから、横になって。
今は大丈夫でも、あとで意識障害や神経障害が出ることも
ありますから。
救急車を使ってココまできたんだから
それなりの処置をしないと、帰せませんよ ( ゚Д゚) ゴルゥア( ゚Дメ ) 」
ドクターは完全に圧倒されています・・・・。
(((( ;゜Д゜))) ノ ソコマデ イッテ イイノ・・・・?
すごい!看護婦さん!!
その後Oさんは、事務長からきつくお叱りを受け
さらに、悪質な嘘言で救急隊や医療機関を混乱させている
ブラックリストに名を連ねたのです・・・・。
医療事務メモ♪
ちょっと、計算してみましょうか。
時間外( 診療時間標榜時間帯以外の診察 )で来院。
Oさんの場合は、コレで何もせず帰りましたが
実際に薬物などの誤飲があれば
胃洗浄、
ルート確保して補液などの点滴、
場合によっては心電図も行われます。
初診料 255点
時間外加算 85点
胃洗浄 250点
処置時間外加算 × 100分の40
( 外来のみ・処置点数が150点以上のときに算定できます。 )
処置薬剤 生理食塩水 500ml など
心電図 150点
点滴手技料・薬剤料
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補足 ■ 胃洗浄の際にスムーズに管を入れるために
キシロカインスプレーやゼリーを使う場合もあるようですが
胃洗浄は一刻を争う処置なので
わざわざ痛みをとっている暇もなかろうということで
まず、請求しても減点されることが多い。(小児などは別)
必要があれば詳記を書いて請求。
地域や保険者によってローカルルールもあるのでこれに限りませんが。
Oさんは、生保だったので
しめて、約1000点(一万円)ほどが
公費でまかなわれるわけです・・・・・。
自己負担があれば、
虚言で救急車呼ぶなんてこともないだろうな・・・。