「群雛」6月号・今回参加してないけどレビュー! | モデラー推理・SF作家米田淳一の公式サイト・なければ作ればいいじゃん

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月刊群雛 (GunSu) 2014年 06月号 ~ インディーズ作家を応援するマガジン ~/堀正岳
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 いろいろ小説書くことに精神的失調だったけど、群雛6月号を読んで回復。

 やっぱり書くことって楽しいんだよね。ちょっとここ数日しんどかったけど、それは大事なことを少し忘れていたから。

 それを思い出させてくれる「群雛」。良い雑誌です。

 というわけでこのブログ、私が小説の話するとPVガタ減りするけど、でも今回も群雛のレビューを。PVが減るのが怖くてブログなんか書けるかー!

 ちなみに私、今回の群雛6月号には参加してないけど、現在久々に中長編書いてます。めいっぱいなのでまたシンドい。でも、読んでほしいと思う作品です。

 

巻頭「ウェブ時代の書き手に必要な「3つの逆転」」堀正岳

 G+のハングアウトショーで拝見している方の話なので、どう来るかと興味深かった。で、内容はなるほどな、と。ウェブでの成功への話は「儲かりますよ、有名になりますよ」みたいな話がよくあるけど、現実にはウェブでの集客なんて今や何かの冗談だと思う。話題になれば炎上マーケティングだったりするし、それ以前にみんながやってることなので埋もれたまま。知名度なんか上がらない。

 だからこそ、目先にとらわれちゃダメだよね。特に堀さんの言葉でグッと来たのが、作品が「贈り物」であるということ。そう、贈り物なんだよ。売り物と思ったらそこで自滅しちゃう。

 アタリマエのことなんだけど、その当たり前のことを、きちんと裏付け持ちながら、多くの人が見失いかけてる時にすっと出せるところが堀さんの価値だよね。頭がいいってのはそういうことだと思う。奇をてらうならだれでもチャンスはあるけど、こういう人は安定した視点から盲点を照らすところに本義がある。

 私もここ数日の不調でそこが盲点になってました(恥。まあ、気づけたからよかった。

 

 

「贖罪」夕凪なくも

 真っ先に読んだ。楽しみな連載だったけど、今号でさらに楽しみな展開に。今は科学捜査万能、科捜研バンザイの話が多いのに、逆に科学捜査の逆を突く方向へ。今流行の警察組織モノではなく、刑事物としての分厚く深い掘り下げが気に入ってしまった。刑事本来の推理と取調べで真相にいたろうという図式が、推理ものづくりに必要なストイックさを構成していて、期待とともに興味をそそる。続きがとても楽しみ。

 

「マトリョシカ」神楽坂らせん

 これも注目作。SF、それもキレのいいロジックを組んだ近未来ネット世界の話。

 たしかにマトリョシカな話で、私的にはこういう世界でこういう枚数でやるにはこれしかないと思う最適解だと思うし、他にも同じような狙いのものをあのころ見たことがあるけど、でもこれを実際読むと既視感を全く感じさせないのが作者の筆力と世界観の広さ、目配りの良さだろう。

 ロジックも明確だし、十分世界にぐいっと浸れながらオチに向けて進んでいき、最後の読後感もいい。うまいと思う。成功している。

 定石を定石通りにやるのって、実は奇をてらうよりはるかに難しい。ましてそれでいて定石を感じさせないのは確かな実力を感じさせる。いい。

 

 

TEDDYBEAR COUNSELOR おしゃべりするテディベアと、本好きな高校生男子の物語」MASH(太田正之)

 本好きさ、それも本に詰め込まれた作者の思いへの好きさがあふれるような話。本好きの話となると、時々本がこの書き手にとっては単なる蒐集の対象、しかも「標本」なんじゃないかと思えて悲しくなるものすらある。でもこの話は全くそういう浅い話ではない。

 本当に本が何故書かれ、それがどう読み継がれ、そしてこれからどう読んでいくかという、本の世界本来の芳醇さを深く表現したいんだな、という気持ちに感じられてとても心よい。決してひけらかしにならないのも、確かな本の世界へのリスペクトが通底にあるからかも。優しい空気感で読める。さすがの安定感。サンプルだけど続きを読みたくなる。

 

Saigyo,Cherry blossoms and love songs」檜原まりこ(写真・翻訳)西行(原作)

 フォトエッセイ、というか写真と西行の作品とその英訳。

 私基本英語苦手なんで、あれこれ言う立場ではないのは自覚してるけど(すまん)、でも私にも労作なのが伝わってくる。翻訳の難しさと、それに挑戦する意欲を尊敬する。写真と英文と和文の組み合わせが面白い。

 今KindlePaperWhiteで読んでるけど、別の端末、とくに大画面でも読みたい。こういうとき電子書籍はいいなと思う、手軽にも読めるし、端末を変えればじっくりも読める。いい写真も多い。

 

「時間はある」竹島八百富

 びっくり。ふわふわフワッ、という話で、ふわふわふわときて、ええっ!という逆転。うーむ、これ、藤子不二雄でいえばF先生路線というよりA先生っぽいかも。でもそれでいて皮肉すぎてない、適正な感じで過不足なくオチがあって、ラストまでのふわふわ感がちゃんとそれに向けてぐっと効いている。読後感はまさに作者の狙い通りというところ。私はすっかりまんまとヤラれました。うまい。嫌う人もいるかもしれないけど、私的には十分ありだと思います。甘いもののなかにはピリリと効いたものもないと。いい。

 

「田中せいや箴言集」田中せいや

 おおー、哲学思想が来た。でも哲学思想というカテゴリのイメージとは違って、「悪魔の辞典」っぽい社会風刺的な色彩が強い。で、作者のインタビューを見るとネガティブが多いとあるけど、かえってそれがいいんじゃないかな。はじめから笑いですよーという感じではないのに、低めのテンションからぐっと毒のある笑いが来る感じ。うん、私もこういう笑いでクスっとすることがよくある(白状)。

 ショートショートもあるけど、これも社会風刺だよね。でもその風刺が共感できてしまう私である。たしかに民主主義のコストだよねえ。

 ただ風刺というのはちょっと間違えると「勉強不足」ととか「上から目線」とか「洒落にならん」と炎上したりする、今一番シンドい分野。作者のあえてそこに挑戦している意欲はいい。難しいとは思うけど、だからこそ続けていって欲しい。良い風刺が出来る書き手に私は飢えていたりする。

 

 

「ニートメタル」 ダニエル・アールグレン(作) ハル吉(訳)

 なんと翻訳コミック!しかもスウェーデン発のニートなメタラーの話!

 たぶん群雛でなければ、このマンガは私は一生出会わなかったマンガだと思う。私スウェーデンでマンガがこうなってるとか知らなかったし、音楽疎いのでましてメタルの世界も知らなかった。

 でも読んでみると面白い。洋の東西を問わずなかなかいろいろと趣味に生きてくのはしんどいけど、それはそれで楽しい世界なんだなと思った。原語に知識がないので翻訳を云々する資格は私にはないけど、でも自然に読めるからいい訳なんじゃないかなと思う。結構マンガの翻訳って難しいと思うので、ほんと労作と思う。よかった。

 こういう分野への出会いを提供できる群雛という場にも感謝。

 

「夢のうちに想ひぬ」 きうり

 今回の群雛は推理が多い気がするのは気のせい? でも群雛は毎回ジャンル的に近いものが固まってもそれぞれが個性的なものなので、毎回読むのが楽しみ。

 この作品は学園モノ暗号もの推理。夢の中に出てきた謎の言葉を推理、というか夢解きしていく。警察も出てこない、警察官僚も科捜研も出てこない。あくまで二人の学生の間で夢解きが進んでいくという推理。で、その夢解きの結論が…。

 夢解きというモチーフがしっかりしているのでしっかり読めるし、決してそれがただの宙に浮いた話ではなく、真相が明らかになって、おおー、と思う。なにげに地域性も出ていたりして、作品世界の完成度も高い。途中の会話も私の好み。

 

「オルカの歌~シュレーディンガーのレプリカ」 ハル@sakuraSoftware

 サッカーもの、といってもプレイヤーの英雄譚ではなく、サポーターの等身大の話。

 これはいい着眼だと思った。私自身目配りが悪いせいか、あまりサポーター中心で話を構成する例を余り見ていないせいか、ちょっと新鮮。

 主人公である十代の内気なサポーターの女の子の世界が、今後どうなっていくのか。どこか瑞々しいと簡単に言えない心の深層があって、なるほどこういう青春の世界もあるんだなあと思う。そこでドラマが成立してて、最後になるほどサッカー観戦っていいなあ、と思わせられる。夏に向かう今の季節に読むとさらにいい風味。

 

「薔薇と春菊」 山田佳江

 群雛ならではの中間小説にちかい文学。推理とかはまだ普通に流通できるけど、中間小説よりの文学って今、発表するのがシンドいもんね。でも、そういうニーズはあると常に思ってるしそれが読めるのも群雛の良さ。

 この作品のメインシーンは友人の結婚式。うわっ、これだけでシンドいテーマ、と思ってしまうのは私もそういう歳になってしまったからか。モチーフから表現されている主人公の女性の心情、やるせなさが描写からじんわりと伝わってくる。文学らしくていい。何気ない一つ一つの物語の装置がモチーフに合わせて適正なので、心にぐっとくる。

 

「エス・エス・エス」晴海まどか

 安定しているなあ。ここまで何度かキャッキャウフフな学園モノを拝見してきたけど、これは大人主人公。でもやっぱりどこかキャッキャウフフな感じがある青春小説という作者の創作のモチーフらしきものと持ち味は通底している。

 全体にも部分にも、スウィートな感じがなんとも好ましい。実は色々今回の6月号を読む中で、最後にこれを読もうと思ったけど、期待通り。サンプルなのに〆に佳い読後感を与えてくれる。群雛らしさのベースになってる感じでいい。好みである。

 

 

表紙イラスト Nyara

 季節性を出しながらのテイストがまたいい。群雛は表紙にも恵まれているなあ。これは手に取りやすくてちょうどいい。イラスト作者の思いも伝わってくる。

 

 

群雛6月号全体について

 福袋的、と発刊の時に言われていたけど、ただの福袋ではなくますますいい福袋になっていて、今回私は原稿書かなかったのでお金出して買ったけど、その価値十分ありだなと思った。スウェーデンマンガとかはまさしくいい意味で予想外だったし、常連になりつつある方の作品もいいし、連載もまた「続き買い」をそそる。新顔さんもまたいい感じ。

 読むだけでなく参加するにもいい雑誌になって、私も末席にいたものとしてとても嬉しい。強く「続けて欲しい」と思う。だって好きなんだもん。それに、面白いし。

 

 最後に、編集・校正・デザインの方のご苦労にも読者として感謝。楽しく良い雑誌をありがとうございます。