クラフトロボでNゲージのお召電車を作ってみる(28)記念運転2 | モデラー推理・SF作家米田淳一の公式サイト・なければ作ればいいじゃん

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記念運転(中)
「しかしたんなるボルスタレス台車の牽引装置の異常と思っていたが」
 工場主任がY編成の足回りの調査結果をみてため息を付いた。
「剛性が上がることで下がる走行性能もあるんですね」
 若手エンジニアが続ける。
「そうだな。ねじれや曲げが車両にはかかる。それを米田重工はシングルスキン構造で作った。
 他のE655系派生形式はその点、従来メーカーの足回りを採用している。
 だが、米田重工はJRの採用しなかったシングルスキン構造にこだわった。
 それは重量の増大する防弾装備を持つ特別車両の走行性能・安定性そして乗り心地向上、そして製作工数を圧倒的に低減すると企図した野心的な計画だった。
 だが、野心と失敗はトレードオフだ。E655に準ずると言いながら、中身は完全に別物だ。
 しかしそれは、これからの車両のスタンダード、次世代車輌を開発する目的もある」
「野心的すぎやしませんか」
「北急はSE、LSEとJRや国鉄も一目おくような車両を作ってきた。それが北急の進取の気風、伝統だよ」
 皆が忙しく装置の取り付けを行なっている。
「だから一部の車両にはE型環状固定具を取り付けている。その車両は問題なかった。
 たしかに未知の事故だ。
 しかし、絶対に解決できる。
 いや、解決するんだ」
「剛性とのバランスはどうつけます?」
「なかなか大変だが、鉄道総研から研究結果をもらうことになっている。
 総研さんも必死だよ。シングルスキン構造は総研さんも入れ込んでいたからな。
 それが解決したとしても、試運転ダイヤの確保だ」

 そのころ車両運用課は激論の渦だった。
「歳末で輸送力は限界まで使っています。その上に試運転列車の入る余裕などありません」
「他社からの乗り入れ列車の運用も必要以上に複雑になります。無理です」
 ダイヤの案を表示する新採用のプロジェクタを見ながら皆が悲鳴をあげる。
「おい」
 黙って聴いていた課長付きのベテランが、気付いた。
「このダイヤのスジ、忘れているだろ」
 皆ははっとした。
「これ、荷物電車の」
「ああ。北急には大昔、荷物電車が走っていた。そのダイヤが盲腸のように残っている」
「でもそれは去年の自動ダイヤ生成システムへの置き換えでなくなったと思っていました」
「あるんだよ、それが」
 皆が押し黙った。
「なぜ残ったんだろう」
「さあな。我々も条件を設定し、自動作成させたダイヤだ。遅れが生じた場合にもスジ屋と呼ばれる技能職がいなくとも代替ダイヤを自動生成するシステム、HMDSが、どうしてもこのスジだけを残した。なぜだかは不明だ。ただ、HMDSはすべての列車の性能や線路の条件を自動計算する」
「まさか」
「ああ。何らかの必然があったんだろう。我々にもわからない。それは決して誰かが仕掛けた時限爆弾的なものでもなく、遺書でもない。計算の結果出た、必然だ」
「ということは、この北急の線路上で、幻の荷物電車が」
「ああ。幻の電車のために、これまでの1年間、北急の統合運行システムは進路を開け続けていたんだ。誰も乗らず、誰も運転せず、何も走らないのに、実際の『何か』が走っているように、信号も分岐器も動いていたんだ」
 みな、ぞっとした。
「まさかとは思ったんだが、本当だ」
「ええ」
 駅務部門との連絡係が添えた。
「たしかに、何も通らないのに、青信号が赤になり、そのあと閉塞信号のとおりに注意、減速、緑と変化するのを見たことがあります」
「まさか、幽霊電車?」
「さあな」
 ベテランはそう言うと、タバコを探すように手を動かし、室内の禁煙標示にあきらめの顔を浮かべ、ふうと息を吐いて席に戻った。
「そういうのは雑誌に任せておけ。ただ、HMDSは、これを予期していたかもしれない」
「魂、ですか」
「そうかもしれないな」

 鉄道事故は警察交通課と国交省事故調査委員会が検討する。
 それに鉄道総研の技術者も加わる。
 故障部分を直したY編成が構内試運転を行う中、その皆が測定機器を見ながら、事故状態を再現させようとする。
「もともと連結器が伸縮連結器であることで問題が生じているのか」
「かもしれん。連結器の胴受けから台車のセンターまでが長すぎるとか」
「うーん」

 そこで鉄道総研が異常状態の再現に成功した。
「おそらく車重が軽すぎたんでしょう。
 一般の他メーカーの先頭車は33g程度ありますが、このペーパーシングルスキン車の車重は13gしかありません。半分以下なんです。
 ですから軌道にケられて脱線を起こすのでしょう。
 ウエイトとウエイトになる機器を搭載すれば大丈夫ですよ」

 早速構内試運転が行われた。
「クリアした! R282のカント付きのS字カーブ、クリア!」
 北急大川工場の皆が歓喜した。
「これで、本線試運転は大丈夫だ」
 抱き合う工員たち。
 その中には鉄道総研も、米田重工のエンジニアも、そして樋田社長たち経営のみなもいた。

 しかし、そこに構内放送がなった。
「樋田社長、国交省鉄道部長からお電話です」
 樋田は業務内線用PHSで電話を代わった。

 そして、その表情が、みるみる曇っていった。
「お召運転指定事業者の指定が、取り消される」

 みな、言葉を失った。

<次回最終回>




 しかし本当にウエイト不足でした。
 KATOのE233(中央快速線)の車重と比較しました。

先頭車
 E233 33グラム
 E655Y 13グラム

中間車
 E233 33グラム
 E655Y 13グラム

動力車
 E233 70グラム
 E655Y 56グラム

 というわけでウエイトを乗せました。
 載せたのは釣具用の板鉛。

 結果、走行性能は完全に向上しました。

 ウエイトは大事だなと改めて感じました。





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