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 鉄子の旅プラスがすごい。
 
鉄子の旅 プラス (IKKI COMIX)/菊池 直恵
¥590
Amazon.co.jp

 いや、内容はかなり予想外でした。

 ぶっちゃけた話、私にとって、IKKIという雑誌の魅力は唯一、鉄子だったのです。

 しかも、鉄子さえ読めればいいので、単行本になるまで待てればそれでいい。

 だいたいにおいて、この大不況で、人々が好物さえ我慢して暮らしているところに、ちょこっとした好物に抱き合わせでどっさり興味趣味を選ぶようなものを入れた「幕の内弁当」を買う余裕があると思っているその経営センスが信じられない。

 特に月刊誌でそういう総花的幕の内弁当編集では、買うほうはたまらない。

 読みたいものがちょっぴり乗った雑誌をいくつも買うお金があれば、旅にも行きたいし、模型を買ったほうがずっとお得感がある。

 確かに鉄道模型をやっていれば、コンテナスパイラルなどといって20K円を投資するひともいる。

 しかし、だからといって、その財布の紐は緩んでいるわけではない。

 選択的に緩む財布の紐、それがいまのデフレ経済の消費動向である。

 そこでいまはGoogleAdsenseのような技術があるのに、この出版不況で数撃てば当たると言っても数に限界があれば当たるはずもない。

 いま、コミック展開に必要なのは、スマート爆撃である。

 マーケティング、アンケート主義編集だってまだ甘い。

 GoogleAdsenseなんか、毎日どう人々が何に関心を持っているかがわかるリポートを刻々とくれる。

 ほかのアクセス解析サービスもそれをやっている。

 それを利用すればもっと精密な資本集中の企画が出来るはずだ。

 そのためにも、すでに赤字が当たり前になっている総合誌はすぐにでもウェブに移行し、紙媒体での出版流通の浪費を節約し、ウェブ上にマンガなどのコンテンツをフリーで公開する、コミックコンテンツカタログサイトとなるべきなのだ。

 ポータルではない。コンテンツカタログである。 

 いま、それが可能になりつつある。そして、その反響から精密に単行本化などの方策を探ればいい。

 それこそ、編集者のセンスの復権ではないか。アクセス解析は検索キーワードを見せてくれても、それをつないだ求められる企画、求められるストーリーまでは作らない。

 そして、そういう時代なのだから、クオリティを自分で保てる作家は、その編集・原案・原作・作画までを一貫して行うことが出来る。

 それを電子流通をすればいい。いまはデジタル同人誌サイトを利用してもいい。彼らは成功報酬制なのだから、発表までの投資はすべて創作に使える。

 あとは単なる技術的に解決のつく問題である。これまでのDRMばかりに留意したばかげた電子ブックリーダーは滅びたが、いずれ書籍版iPodのような書籍端末が普及する。アメリカではすでにそれが始まっているという。

 1000冊の書籍を収めた書庫を書籍版iPodのような形態で持ち歩ける技術の時代がいまである。その時代にあんな質の悪い用紙に曲芸的な印刷をして、その雑誌を、たったその数ページのためだけに買ってもらおう、そう考えるビジネスが成立しないのは当然である。

 不況ではない。雑誌はもうビジネス的におかしいのだ。もうおかしさを笑いあうような状態ではない。




 そこで鉄子の旅プラスである。

 ほんと、IKKI編集部はこの本を売る気があるのか?

 内容がすばらしいのに、例によって折角こうして紹介しようとしても書影は例によってまだない。

 だが、企画的には実にすばらしい。

 鉄道趣味というよりも、鉄子の旅の世界を堪能するすばらしいスペシャル。これは必買である。これは鉄子のファイナルを飾る、すばらしい本である。

 内容はほんとうにすばらしい。

 横見さん、キクチさん、カミムラさんのレギュラーに同行するエッセイストの文章で楽しむ旅。なんとエッセイストは「負け犬の遠吠え」の方。「テツ」対「負け犬」の大決闘、かつ小学館・新潮社相互乗り入れ企画。

 濃い上にさらに濃い面子、スーパーベルズに南田マネージャー、豊岡真澄さんを加えたテツ度極濃の旅。その目的はなんと驚愕のアレ。

 それだけではない。実録マンガをアニメにすると……恐怖、「実録アニメ」というとんでもない難題への挑戦。だって何年間もの連載、マンガで省略できてもアニメで省略するわけには行かないあれやこれや。

 横見さんも絶好調。プロデューサーと初対面なのに「挨拶なんて後にして!」 すごすぎる。

 トラベルライターなのに、「文章書きたくない。俺、文章苦手。国語2だったから」

 愕然。この人は本物だ。

 そして、「負け犬」著者の言葉がすばらしい。誰もが同じダイヤを、同じ列車に乗っているのに、乗る人によって、それがつまらない日常になるか、それとも旅になるか、それとも鉄子の旅になるかがかわってしまう。

 すばらしい。あと、ほくほく線美佐島駅での超絶体験。在来線最高速のほくほく線特急通過時のアナウンス。

「まもなく、列車が、高速で、通過します。危ないのでホームに入らないでください」

 これはここだけだろうな。通過するアナウンスはあるけど、GG高速進行信号で通過する駅はここだけ。

 このアナウンスを聴くためだけでも、旅に行く価値がある。それが鉄子の魅力。

 すばらしい。これで590円はお買得なのだが、逆にこのすばらしい濃さを薄めきったIKKI本誌がいかに割高なのかも感じてしまう。

 IKKIのような雑誌ほど、デジタルコミックカタログという世界を開くべきだと思うのだが。


 こういう雑誌を、団体戦と考えることがかつて出来たらしい。

 しかし、それがマンガが同じサッカーのFW、MF、DF、GKという役割だったら成立するが、

 前では卓球をやって、その後ろで柔道、その後ろではカーレース、一番後ろでは野鳥観察をしているような状態に連係プレイが期待できるわけもない。

 少量多品種生産の時代とは、そういう時代なのだ。

 マンガにもいろいろな可能性がある。

 だが、その多様な可能性を生かすためには、もっと低額な投資でまわるようにビジネスモデルを変えるべきだ。

 そこで、デジタルコミックカタログサイトなのである。