山本周五郎 『山本周五郎全集 第20巻 晩秋 野分』 (新潮社) | 還暦過ぎの文庫三昧

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 還暦を過ぎ、嘱託勤務となって時間的余裕も生まれたので、好きな読書に耽溺したいと考えています。文庫本を中心に心の赴くままに読んで、その感想を記録してゆきます。歴史・時代小説が好みですが、ジャンルにとらわれず、目に付いた本を手当たり次第に読んでゆく所存です。

山本周五郎全集 (第20巻) 晩秋 野分/新潮社

 1983年8月発行の新潮社版。全30巻の全集のうち、この『晩秋 野分』は短編集の第3巻目である。このところ、眠る前にこの短編集を紐解くのが日課のようになり、これが楽しくてならない。

 毎回書いているように、この全集の短編集は発表年月順に収録されており、この巻には、昭和20年12月号~23年6月号発表の作品19篇が収められている。戦争が終り、紙資源にも余裕が生まれたのか、各編が少しずつ長くなって、前の2巻と比較すると収録作品数は少なくなったが、その分、それぞれに読み応え十分である。戦中の統制が無くなったからか、それとも、作家としての力量が増したからか、著者の姿勢にも余裕が感じられるようだ。

 例によって、収録作のタイトル、その発表年月と発表媒体、及びその作品が収録されている新潮文庫のタイトルを列記しておきたい。(巻末の「附記」を参照しているので、新潮文庫収録は昭和58年6月現在。)

 『晩秋』             昭和20年5月号「講談倶楽部」  新潮文庫『町奉行日記』に収録 

 『彩虹(にじ)』         昭和21年2月号「講談雑誌」    新潮文庫『雨の山吹』に収録

 『花咲かぬリラ』        昭和21年5月号「新青年」

 『備前名弓伝』         昭和21年5月号「講談雑誌」    新潮文庫『花杖記』に収録

 『山だち問答』         昭和21年6月号「講談雑誌」    新潮文庫『やぶからし』に収録

 『四年間』            昭和21年7月号「新青年」     新潮文庫『雨の山吹』に収録

 『明暗嫁問答』        昭和21年9月号「講談雑誌」    新潮文庫『花匂う』に収録

 『恋の伝七郎』        昭和21年10月号「講談雑誌」   新潮文庫『雨の山吹』に収録

 『野分』             昭和21年12月号「講談雑誌」   新潮文庫『おごそかな渇き』に収録

 『初蕾』             昭和22年1月号「講談雑誌」

 『蜆谷』             昭和22年3月号「新読物」     

 『ひやめし物語』       昭和22年4月号「講談雑誌」

 『葦』               昭和22年6月22日号「週刊朝日」 

 『金五十両』          昭和22年9月号「講談雑誌」    新潮文庫『町奉行日記』に収録

 『風流化物屋敷』       昭和22年10月号「講談雑誌」   新潮文庫『人情裏長屋』に収録

 『評釈勘忍記』        昭和22年12月号「新読物」     新潮文庫『松風の門』に収録

 『若殿女難記』        昭和23年2月号「講談雑誌」     新潮文庫『花も刀も』に収録

 『忍術千一夜 艶妖記』    昭和23年2月号「新読物」

 『忍術千一夜 三悪人物語』 昭和23年5、6月号「新読物」


 上記の内、『花咲かぬリラ』と『四年間』は現代小説であるが、いま読むと、かえって古さを感じる。やはり周五郎は時代小説のほうが普遍性が高いようだ。作家の資質としても、時代小説のほうがモノを言いやすかったのではないだろうか。

 『晩秋』は、藩の改革に功績をあげた元用人が、その過程で苛斂誅求があったとして自らを問責し、死を賭して改革を完成させようとする物語である。どことなく葉室麟の『蜩ノ記』を髣髴させ、感銘深い。

 『山だち問答』は、第18巻に収録されていた『だだら団兵衛』を焼き直した作品であるが、こうして読み比べてみれば、著者の成長は明らかで、はるかに味わい深くなっている。

 『明暗嫁問答』『恋の伝七郎』あるいは『風流化物屋敷』など、意図的に饒舌な文体で講談調を強め、ユーモア作品に仕上げているのも楽しい。一方で、『野分』『葦』など、シリアスな恋物語や人生の流転を描いたものもあり、自分の身に置き換えてじっくりと考えたくなるような作品も見られる。

 『蜆谷』や『ひやめし物語』は、物語の後半で見事な逆転劇となり、スカッとできる作品であるのに、いまも文庫未収録であれば、惜しいことだと思う。

 冒頭に書いたように、周五郎の短編を読むことにすっかり満足している自分がいます。

  2014年9月7日  読了