2004年4月発行の祥伝社文庫。
著者の作品では、『ふたり道三』も面白かったが、青春時代小説とも言うべき『夏雲あがれ』の清新さが忘れられない。文句なしに楽しめる作品であった。
この作品も、肩の凝らない娯楽読み物として、十分の出来栄えである。魔羅賀平助という巨躯の若武者と、丹楓と名付けられた緋色毛の牝馬との、いわば人馬一体の痛快コンビが戦国時代を駆け抜けるというストーリーであり、この破格のヒーローを創造した時点で、その面白さは保証されたも同然なのである。しかも平助は、刃渡り4尺の長刀「志津三郎」を背負い、槍を仕込んだ朱柄の傘を操り、合戦以外では愛馬に跨ることはなく、馬具一切を担いで旅をゆく。合戦では、弱いと思われるほうの陣を借り、獅子奮迅の働きをするのだ。ヒーローとして、実に申し分のない設定なのである。
彼が「陣借り平助」として名を挙げたのは、安芸の毛利元就の陣を借りて戦った厳島合戦であった。その彼が、第一話『陣借り平助』では尾張へ現れ、信長の陣を借りて、桶狭間へ出陣する。平助はもちろん架空のヒーローだが、戦国史の考証を試みつつ、そこで平助を活躍させようというストーリーなのだ。しかも、平助は恋の取り持ちまでもを果たしている。実に爽やかで、憎めないのである。
以下、第二話『隠居の虎』では浅井長政、第三話『勝鬨媛の鑓』では北条綱成、第四話『落日の軍師』では武田信玄、『恐妻の人』では徳川家康の陣借りと続く。『隠居の虎』では、長政の父の久政を補佐し、久政の立場の復権に尽力する様子が心温まるし、『落日の軍師』では、平助も川中島合戦に参加するのだが、そこでの山本勘介の死を、武田家の後継争いによる身内からの発砲と見抜き、卑怯な鉄砲撃ちを勘介の敵打ちとして追い求めてゆくことになり、その歴史解釈にも注目である。
第六話『モニカの恋』と第七話『西南の首飾り』では、一転して、平助の出生の秘密が語られることになる。薩摩武士の安次郎の娘・ゆきじが、遠くマラッカの地で南蛮人の暴行を受け、その結果誕生したアロンソこそ、後の魔羅賀平助なのである。ゆきじは間もなく死に、フランス医師マルセロの手で育てられたアロンソは、母の産まれた国を見たさに、日本へやってくる。彼は堺の豪商・日比谷善九郎方に寄食し、武芸を磨き、合戦を求めて丹楓とともに旅をするようになったというわけなのだ。彼の巨躯と怪力は、南蛮人の血が混じっていることで説明できるのである。
平助の知らぬまま、祖父の安次郎との出会いも挿入され、合戦色は薄くなるけれど、この最後の二話も読み応えがあった。著者は平助という異色のヒーローを創出するのに、これだけの背景を持たせていたわけで、だからこそ、決して荒唐無稽に陥らない物語となっているのであろう。
久しぶりに、面白い時代小説を堪能できたように思う。
2009年7月20日 読了
