小説「海へ」1-4-N
前回までのあらすじ:
電車の中で少女漫画「たいむぶれっど」を読んでいた主人公は、同じ電車で作者である少女と出会う。
少女は漫画家になる夢を持ち、延々と独白し始める。
一方、主人公は少女の漫画の終わり方に疑問を持ち、少女の言葉に疑問を呈する。
少女のモチベーションは、実は仮想都市の存在であった。
主人公は混乱し、マンドリルとマンドリンなど、あり得ないものを比喩に用いる。
第一部
第4章「電話機たちの沈黙、そして喪失」(14)
座席に腰掛けたまま、ぼくは言った。
「そう、そのマンドリルを持ったマンドリンのことです。
あれでは、何のことか全くわからない。
というより、今までの話が全てぶちこわしだ。
ぼくは、あの最終ページはないほうがいいと思いますよ」
あっそういうことなの、という顔を少女はした。
ようやく、ことの次第が呑みこめてきたようだ。
「ああ、そのことなのね。
それを言うなら、マンダリンの中の不思議な厚生課職員ね。
いえ、ちがったかしら。まあ、どうでもいいわ。
重要なのは、とにかく、天国普遍非実在論なの。
天国っていうのは、つまりどこにでもあって、どこにでもないものなのよ。
結局、わたしは、あの最終ページを描くためにあのように長々と込みいった物語を仕上げたわけ。
あの物語の中で一番重要なのは、あの最終ページなのだから。
あなたにはそのことがわからなかったのかしら」
(続く)
マンダリンの中の不思議な厚生課職員
(イラストはCiCiAI生成によります)