「海へ」(第58回) | 読むこと考えることその他

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小説「海へ」1-3-U

 

前回までのあらすじ:

主人公は電車で出会った漫画「たいむぶれっど」に魅了され、偶々居合わせた作者の少女から後半の原稿を見せられる。
主人公は少女の才能に気づき、彼女が一流の漫画家になることを夢見るが、少女は出版社へ行くことを決意する。
しかし、主人公の真意は少女と離れたくないということなので、少女を引き止めようとする。
だが、主人公は真意は語れず、なぜか複雑な鉄道網を例えに語り始める。
 

第一部

第3章「天才との会話、及び非線型理論の概要」(21)

 

……
さてそのようにして、各々のポイントにおいて電車が取り得べき状態の推移過程を考えてみますと、これは現在のおけるポイントの状態とその一つ前のポイントの状態に依存しますから、当然ながら単純マルコフ連鎖のひとつのモデルとなっています。
とはいえ、ことはそれほどに簡単ではなくて、さらに各ポイントにおける四つの力動系の時間推移に伴う状態の変化、ブレンチの派生のし具合、またそれぞれの力動系自身の各瞬間における状態の選択が微妙に絡んできます。
結局、ことは、二重、三重、四重マルコフ連鎖となり、これを推移確率行列をもって模式的に表現しようとしますと、実に二の四乗、すなわち十六×十六行列となりまして、この確率行列の極限を計算することによって、はたしてそれが非周期であるか否かが決定されるわけですが、たとえ周期的であっても、その解が有限にならぬ場合これは非エルゴード性をもつものと判断され、すなわちこの場合にはわれわれは絶対に有限の時間内では元来た場所に戻れないということになり、一生涯この電車に乗って各地をさまようということになりまして、まあ、これは何というか、そのう……」

 

(続く)

 

一生涯この電車に乗って各地をさまよう

(イラストはBingAI生成によります)

 

 

海へ「目次」

 

「海へ」第1回