「海へ」(第32回) | 読むこと考えることその他

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小説「海へ」1-2-L

 

前回までのあらすじ:

主人公は年金の手続きに不満を感じて少女漫画を買いに行くが、電車を乗り間違えてしまう。
そこで、128番目に読んだ「たいむぶれっど」という漫画に心を奪われるが、前半で終わっていたため嘆息する。
そこに茶色の紙封筒を持った少女が現れ、主人公に話しかけてくる。
少女は出版社に行く途中だが、場所が分からず、関係のない主人公に次の駅で降りるように頼む。
主人公は少女の言動が「たいむぶれっど」の登場人物に似ていることに気づき、少女の要求を拒否する。
少女は主人公が何者でもないことを認め、主人公は少女の原稿を見せてもらうことを要求する。
少女は原稿を見せ、それは「たいむぶれっど」の後半で、作者はUBであった。

主人公は少女の漫画「たいむぶれっど」の後半を読みながら、少女の「何者でもない」状況について応答し、彼女の作品を評価する。

少女は主人公に、なぜ自分の作品を評価するのかと問いかけるが、主人公は少女の言葉に心を奪われていて、少女は意味不明なことを言う。

少女は突然跳ね起き、その行動は「たいむぶれっど」の中の状況と一致していた。

主人公は、少女が大学教授のうさぎを殺そうとする幻覚を見ているのか、それとも単に狂言めいたことを言っているのか判断できない。

 

第一部

第2章「そして天才は発見されるべくして発見される」(12)

 

すると少女はけたけたと笑いだして、こう言った。

 

「あなたは、今、わたしが急性の疲労感覚のために現実とフィクションとの混同を起こしているのか、それとも単に狂言めいたざれ言を言っているのか、そのどちらであるのか訝しんでいるところね。

ところが、実はどちらでもないのよ。

いいえ、そのどちらでもあるといえるわね。

だって、わたしの脳細胞はとてもとても疲れていて、まともな現実認識はできそうにもないし、かつまた、わたしがロバであってあなたがうさぎであるというのも事実なのよ。

でも、このような喩え話はもうやめにしましょうね。

だって、この先いつ、本当にロバやうさぎや猫や鴉や〝くらりぼっくり〟が出てくるとも限らないから。

そして、あの〝くらりぼっくり〟はわたしの大嫌いなものなのよ」

 

 

(続く)

 

かつまた、わたしがロバであってあなたがうさぎであるというのも事実なのよ

(イラストはCiCiAI生成によります)

 

 

海へ「目次」

 

「海へ」第1回