お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました | 読むこと考えることその他

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午前は、日本人によるパンク、ニューウェーヴ、アヴァンギャルドです。

性別制限を外しました。



1984年のカセットマガジン「ベトナム伝説」からです。


歌詞:
おかあさん 雨の信号はいつも横断歩道のわきで
ぱっくり口をあけているあなたの卵巣が
真紅にはれ上がった
太陽の記憶をゴミ箱から引きずり出し
そしてそこから一匹の虫が
こそこそと逃げ出そうと28万5120時間
の暗闇をめぐりながら
今すぐ夕食の食卓にひんぱんに出された
玉ネギのミソ汁を頭からかぶり ずぶ濡れに
なった幸福の思い出を今か今かと待ちわびる
自閉症の子供の通信欄に
ぼくのおとうさんは公務員ですと
一人で書き込む恥ずかしさを誰かに教えたくて
放課後の来るのも待ちきれず
教室を飛び出して 一目散に家を
めざしたのだけれど
もれそうになるオシッコをがまんして
教えられた通り緑色に変わったら渡ろうとしていた
信号が 実は壊れていたんだと気づいたときには
すでに終わっていたんです
お元気ですか?

おかあさん 頭がいいのは
ぼくのせいではないと自己主張するたびに
宙ぶらりんの想像妊娠恐怖症からやっと
立ち直った 女の下着には
いるも黄色いシミが付いていて
人種差別は性欲の根源であると
公言してはばからない
アメリカの政治家の演説をうのみにしたような
すがすがしい朝の勃起で
ベトナムのバナナのたたき売りを
一目見ようと 片手に電動コケシと
片手に赤マムシドリンクを
かかえ込んだ農協のじじいが
かわいい孫娘のおみやげにと
上野のアメ横ではやりのジーンズを買い込んで
金を使いはたし家族は運命共同体
だと時代遅れの暴言を吐いて
浮浪者になってしまったあげく殺されてしまった
悲しい話を思い出してはみるのです
お元気ですか?

おかあさん パンツのはけない留置場は寒いです
水洗便所の流す音がうるさくて
なかなか寝つけないので
犯罪者はいつもこっそりセンズリをかくのですが
「おかげであなたの夢ばかり見る」と
取調べ室でしゃべったら
刑事はさおもうれしそうに
「親孝行しなけりゃいかん」と
昼メシにカツ丼をおごってくれたのですが、
タヌキウドンの方が食べたくて
「父オヤは嫌いだ!」と言ったら
自衛隊かぶれのとなりのヤクザが
真紅になっておこり出して
「ゼイタクは敵だ」などと
勝手なことをほざいてので
「オマエなんか生まれてこなけりゃよかったんだ!
この貧乏人め!」と
つい口をすべらせてしまったのです
お元気ですか?

おかあさん いいかげんあなたの顔は
忘れてしまいました
膀胱炎にかかったときあそこを氷で冷やす快感
をおぼえてしまったぼくは お風呂が大嫌いになり
何枚もボロボロに皮がはげ落ちて むき出しになった
皮下脂肪のしつこさが耐えきれず 赤紫の玄関口で
一人で泣いていたんです おかあさん もう一度
アンパンが食いたい
正月に作ってくれた栗キントンが食べたい
ブタ肉だらけの砂糖のたっぷり入った
スキヤキが食いたい 好き嫌いは庶民の恥です
おかあさん 今朝から下痢が止まらないのです
おかあさん 血管もちぎれてしまったみたいです

おかあさん 血が止まらないのです
血が止まらないのです
おかあさん!おかあさん!
赤い色は大嫌いです


by 遠藤ミチロウ