幻想的でミステリアスな、切ないラブストーリー。

4088561147下弦の月 1 (りぼんマスコットコミックス (1114))
矢沢 あい
集英社 1998-12-07

by G-Tools

意外と矢沢あいさんの作品の中で一番好きかも知れない。
これが「りぼん」で連載されていたなんてちょっと驚き。
小学生にはちょっと大人っぽすぎるでショ、な作品。

◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆ あらすじ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

美月は家族・恋人・親友との関係が上手くいかず辟易していた。
そんな時ギターを奏でるアダムと出会い、急速に惹かれるが
下弦の月の夜、美月は彼に会いにいく途中で事故にあう。

同じ頃、飼い猫を捜している途中で事故に遭った小学生・蛍は
昏睡の夢の中、飼い猫のルルと美しい女性(美月)に出会う。

目覚めた蛍はある廃墟で、夢で出会った美しい女性と再会。
しかし彼女は自分自身のことを何ひとつ覚えておらず、
さらに不思議な事に、その廃墟から出ることも出来なくて・・・。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


すごく雰囲気のある作品。その世界に引き込まれる感じが好き。

初めの「美月の章」は荒れた高校生たちの話で、あまり魅力を
感じなかったのですが、蛍たちが出てきてぐっと面白くなった。

やっぱり小学生の純粋な思いとか健気な感じが好きみたい。

蛍と親友の沙絵、クラスメイトの正輝と哲が、蛍にしか見えない
記憶喪失の幽霊・イヴを成仏させようと力を合わせる。


この4人の小学生たちが、かなり魅力的きらきら

それぞれどこかに寂しさや、満たされないものを感じていて
でも表面上はそれを出さないよう、強く生きようとしている。
そんな姿がとても健気で、胸が締め付けられます。

だけど小さな身体には抱えきれないような問題だったりして
挫けそうな部分を子供たちで友達同士支えあう、みたいな。

蛍と沙絵のがっちりした女の子同士の友情も素敵だし、
正輝と哲のきどらない男同士の友情もかっこよくてイイです。


この4人は、出逢うと運命みたいにそれぞれ自然に惹かれあう。
それが全く無理がなく、むしろ自然で、必然であるかのよう。

4人の出会いが"運命"と語られるほど注目されはしなけど
でも、きっとこういうのが"運命"なんだよなと思ってしまった。


イヴの正体を知るため、少ない情報で細い糸を辿る蛍たち。
イヴ(美月)の正体に近付けば近付く程、すれ違うイヴの記憶。

イヴが唯一覚えているアダムという恋人は一向に姿を見せず。
一体アダムとは誰なのか?美月との関係は?イヴの正体は?
と、かなり謎に満ちたミステリアスな感じで進んでいきます。

更に4人の関係性の変化が絡まりあって、かなり惹きこまれる。

全3巻という短さとは思えないくらいボリュームがあって
でもコンパクトにすべてがスッキリと綺麗にまとまっています。


一歩一歩進むたびに、底なし沼の深みに
はまっていくような、幻想的な愛の物語。



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イヴ(美月)の姿は蛍にしか見えなくて、蛍が見えない物や
聞こえない物が見えるということに恐怖を覚える沙絵。

初めは逃げ出すんだけど、蛍ちゃんを置いていけない!って
勇気を出して助け出しに行く時の様子が好き。

沙絵ってカッコイイなきらきらって。

だけど基本的には私は蛍が最後まで一番好きでしたハート
自然体で素直でかわいくて、まっすぐで嫌味がない。

だから、しっかりしてても実はちょっと繊細な正輝より
少しおバカだけど、どんな事も大きくすっぽりと包んでくれる
でっかい器をもった哲の方が、蛍にはお似合いだと思う。

病室で目覚めない美月に向かって呼びかける時、
蛍の肩に手をかけてしっかりと支え、包み込んであげていた哲。
その後ろで、二人で手を取り合い、支えあっていた沙絵と正輝。

蛍と哲、沙絵と正輝、2人の関係と
4人のバランスが、そこに表われているようでした。
きっとこれからも、こんな風に支えあっていくんだろうなって
それだけはすごく強く感じられました。


美月がイヴの記憶をなくして、蛍たちを忘れてしまったことは
胸が痛いけど、美月の未来を考えると確かに仕方ないのかな。

美月がこれからの人生を幸せに生きることが一番大切だから
美月を幸せにする、大切にする智樹こそが、その事を知って
忘れずにいる事の方が、ずっと大切だという気がする。

智樹が二度と同じ過ちを犯さないよう、美月を手放さないよう。



すべては美月を幸せにする為のアダムの魔法みたいでした。

「美月のこと、どれだけ大切に思っているんだ!?」って
家族や友達や親友に、訴えかけているかのようでした。

彼らの想いがもし足りなかったら
きっとアダムは美月を連れて行っちゃったんだと思う。

初めは智樹って、ただのアホな兄ちゃんかと思っていたけど
そうじゃなくて、美月にちゃんと幸せを与えてあげられてたんだ。

美月は智樹といて、ちゃんと幸せを感じられていたんだよね。
それがとても救われました。


生きていると過ちを犯さないという事は難しいけれど、それでも
慢心や自己防衛からの過ちは、自分の力で抑えられるはず。

その点では、高校生の美月たちより、小学生の蛍たちの方が
よっぽどしっかりしていて、大人っぽかった気がします。

悩みがあっても辛くても、投げやりになったりせず
地に足をつけて踏ん張っていた。

苦しくて、自分や周囲の人を傷つけてしまう美月たちは
やっぱりどこか子供っぽかった気がします。
お互いが傷だらけになっていて、痛々しかったです。


高校生ってちょうどそういうお年頃なのかもしれませんが、
蛍たちと出会えて、彼らはみんな救われたよな、と思いました。

これからは自分の弱い心が人を傷つける事のないよう
強くなっていって欲しいなと思います。



下弦の月 3 (りぼんマスコットコミックス (1173))
下弦の月 3 (りぼんマスコットコミックス (1173))矢沢 あい

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