人と話すのが苦手だ
気持ちを伝えるために
どんな言葉を使えばいいのか
相手を待たせてしまう
周りの会話のペースに
ついていけない
わたしはきっと
駄目な子供なんだろう
先生や他の大人に
しょうがない子と言われる
いつしか自分の意見を
言わなくなった
周りの意見に合わせてもいれば
考える必要もないし
相手を待たせる事もない
それでいい
わたしの気持ちなんて
この世界には必要ないんだ
頬を雫が伝う
わたしはそれを拭いながら
自分の名前を思い出す
わたしの名前はシズク
涙を流すにはお似合いの名前だ
名は体を表すだっけ
何の皮肉なんだろう
本当に大人の言うことは正しい
きっとこうして
いろんな事を諦めて
わたしも大人になるんだろう
何となく集団の中にいるけど
何処にも居場所は無くて
でもそんなもんだよね
ほら諦めるのも
上手くなってきたでしょ
駄目な自分も
駄目なりに上手くやってる
そう思ってた
あの日までは
それは偶然だった
通り雨を避けるために
立ち寄ったショッピングモール
そこのCDショップで行われてた
インストアイベント
何気なく聴いたその歌声は
世界の色を変えた
彼女の名前はアメ
ギターを弾きながら歌う彼女の歌は
まるで優しい雨みたいだった
わたしの心の中にある
寂しさとか悲しさとか諦めとか
いろんな感情を洗い流してくれる
わたしは自然と泣いてた
イベントが終わりショッピングモールを出る
もう雨が上がっていたけど
わたしの心はそれ以上に晴れてて
まるで虹が架かったみたいに
世界がキラキラして見えた
わたしはアメの歌に夢中になり
ヘッドホンでアメの歌を聴くようになった
結果として周りとは距離ができたけど
それが孤独だとは思わない
だってアメの歌はいつだって近くにあるし
音楽はこの世界に溢れている
いつしか自分でも歌いたくなって
中古のギターを買った
ボロボロのギターだけど
それを綺麗に磨いて
虹を描いた
アメの真似をしながら
ギターを弾きながら歌う
デタラメなコードで
思いついた歌詞を歌ってみたり
音楽は自由だった
今はひとりで歌ってるけど
誰かに向けて歌うって
どんな感じなんだろう
アメがどんな世界を見てるのか
ちょっと興味がある
わたしもその世界を覗いてみたい
そういえばもうすぐ
アメのコンサートがある
隣の市だからバスで行けるし
お母さんにも許可をもらった
いつかわたしの歌を
アメに聴いてもらいたいな
そしてアメと話してみたい
少し前までは
こんな事は考えられなかったけど
アメの歌に出会って
わたしの世界は変わった
アメはシズクになって
いつか虹になる
アメわたしね
アメの歌が好きなんだよ
そして歌うのが大好きなんだ
だからいつか
わたしもアメみたいに
歌を届けられる人になりたい
そんな事を考える今の自分を
わたしは思いの外
気に入ってるんだ