現代ビジネス

 

『別冊 おとなの週刊現代 「血圧」と「血管」の新しい知識』では、多くの人が悩みを抱える「血圧」や「血管」にまつわる情報、そして健康に関するさまざまな情報を紹介している。同書より「自律神経」にまつわる記事を一部編集のうえ、おとどけする。

 

【前編】「あなたの腰痛も、不眠も、「たった一つの原因」から発しているかも…その「原因」を解明する」では、自律神経の乱れが痛みの原因となることをお伝えした。以下では、さらに、自律神経の乱れが引き起こす問題を見ていこう。

現代ならではの痛みの原因

現代ではスマホやパソコンが痛みの原因になることもある。デジタル機器を使用すると、姿勢が固定化する上に、次から次へと新しい情報に触れることで交感神経が過剰に活発になる。機器を遠ざけるだけで、原因不明の痛みが和らぐこともよくある。

 

次ページの図表を見てもらえば、交感神経と副交感神経がそれぞれ臓器や血管などにどのような影響を及ぼしているかがわかる。

 

例えば、胃や膵臓といった消化に関わる臓器は副交感神経が優位なときに働きやすい。

 

食べ物を口に入れると、副交感神経のスイッチが入り、唾液腺が刺激されて唾が出る。胃も活発に動き始めて胃液を出して消化が進む。その他、胆汁や膵液などの分泌も行われる。

 

食後、しばらくして眠くなるのは、副交感神経がよく働いて身体がリラックスモードになっているからだ。逆にとても嫌なことがあったり、悲しみにくれていたりすると、交感神経が高まった状態が続くので食欲もわかず、食べ物もうまく消化できない。

 

消化不良で下痢になったり、便秘が続いたりするのは、消化を促す副交感神経がうまく作用していない恐れがある。食後は激しい運動や難しいことを考えるのは避けて、のんびり過ごすことで良い消化が促されるはずだ。

排便・排尿にも自律神経が深く関わっている。

 

食べ物の消化が終わり、排便の準備が整うと副交感神経が高まり、内肛門括約筋が自然とゆるみ、便意がもよおされる。

 

排尿も同じで、我慢しているときは交感神経が優位になり、内尿道括約筋が締まる。逆に副交感神経が高まると括約筋がゆるむというわけだ。このように、交感神経と副交感神経はわれわれの生理作用のあらゆる面と関わっている。

 

このように、交感神経と副交感神経はわれわれの生理作用のあらゆる面と関わっている。

セックスと自律神経

男性器の勃起に関しても然り。リラックスして副交感神経が優位になると性器内の血管が拡張して血流がよくなり勃起しやすくなる。逆に、気にかかること、悩みごとなどがあって交感神経が優位な状態では、勃起しにくい。

 

ただし、射精にいたるにはある程度の交感神経の高まりが必要である。セックスというのは自律神経の複雑な高まりと静まりを必要とする、難しい生理作用なのだ。

 

自律神経は人間の身体を隅々まで司っている。問題は、この神経が「自律」しているので、手足を動かすように意識的に血圧や心拍数をコントロールすることはできないという点だ。

 

だが、交感神経、副交感神経の特徴をよく理解すれば、自律神経のバランスを整えることは可能である。

 

せたがや内科・神経内科クリニック院長の久手堅司氏によると、自律神経を制御する要になるのは「呼吸」だという。

Photo by gettyimages

Photo by gettyimages© 現代ビジネス

 

 

「意識的に自律神経を調整できる例外的な方法は、呼吸です。呼吸は生命を維持するために必要な内臓の動きなので、自律的に行われています。しかし同時に、息を吸って吐くには自分の意志で動かすことが可能な骨格筋(横隔膜や外肋間筋)を使います。つまり、呼吸は自動的に行われていながら、自分でもコントロールできるのです」

 

具体的には息を吸うときには交感神経が働き、吐くときに副交感神経が優位になる。また、交感神経が優位なとき呼吸は浅く速くなり、副交感神経優位では深くゆっくりになる。

 

「とくに忙しく活動しているときなどは交感神経が優位になっていることが多い。ですから、ときどき意識してゆっくり息を吐くことで副交感神経を高めると自律神経が整います」(久手堅氏)

呼吸のコントロール

ヨガや太極拳が健康法として優れているのは、呼吸のコントロールを行うことで筋肉だけでなく自律神経も鍛えることができるからだ。

 

日常生活では「1対2の呼吸法」をときどき行うといい。例えば、3秒かけて息を吸った後、その2倍の6秒かけて息を吐く。これを意識的にくり返すうちに身体をリラックスモードに落ち着かせることができる。できれば3分ほど行いたい。

Photo by gettyimages

Photo by gettyimages© 現代ビジネス

 

 

イライラしてものごとに集中できないとき、夜なのになかなか寝付けないときなどに行うと効果的だ。

 

呼吸器をしっかり動かすという意味では、大声を出したり、歌を歌ったりすることも効果的だ。カラオケでマイクを握って横隔膜や腹筋をしっかり動かしておくと、よく眠れるだろう。

ぬるめのお風呂

他にも自律神経をコントロールする方法はある。例えば入浴の際に、風呂の温度を意識して体温を調整するのだ。

 

例えば就寝前には39~40度の風呂に15分ほど入ると身体の深部までゆっくり温まり、血管が拡張して副交感神経も高まって深い眠りが得られる。また、排尿もしやすくなるので、就寝前にしっかり済ませておけば、夜中に尿意で目覚めることも少なくなる。

 

一方、42度以上の熱い湯につかると交感神経が急に活発に働きだすので、朝湯ですっきり目を覚ましたいときなどは高めの湯加減がいい。

 

体温は自律神経に深く関わっているので、とくに注意すべきだ。

腸内環境を整える

腸内環境を整えることも大切だ。先述したように胃や腸といった消化器官と副交感神経は密接につながっている。とりわけ腸は栄養を吸収するだけでなく、幸福感の源となるセロトニンという神経伝達物質の95%を作りだす役割も担っている。

 

腸内環境を整えるためには、栄養バランスの良い食事をすることはもちろん、食事の時間も大切だ。朝食と昼食、夕食のあいだはできれば5~6時間以上空け、間食しないことが望ましい。間食をすると腸の休まる時間が短くなるからだ。

 

薬の飲み方も自律神経に影響を及ぼす。例えば、胃薬や下痢止めを飲んだときに唾が出にくくなって口の中が渇くと感じたことはないだろうか。

 

これは抗コリン薬という薬の副作用だ。ある種の胃薬や下痢止めには過度な消化管運動を抑えるために、副交感神経を抑える「抗コリン」作用がある。胃の痛みや下痢を抑えてくれるだけならいいが、副交感神経を強制的に弱めるので、唾液腺も働かなくなり、口内がカラカラになってしまう。

 

雨天が続いて元気が出ないときは、無理にでも身体を動かすなどして心拍数を高め、交感神経を高めるのが体調回復への近道だ。

 

身体のすべての機能に関わってくる自律神経を整えることは、すなわち人生を整えること。ちょっとした体調の変化に耳を澄ましたい。