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渋井 哲也 によるストーリー

 

 

 4月中旬、東京都23区内のマンションから小学6年生のA子さんが落下、病院に搬送されたが死亡が確認された。複数の関係者によると、警察は自殺と見ているという。また警察は、亡くなったA子さんへの監護者性交等罪の疑いで父親を逮捕している。

 

 警視庁はA子さんの死亡や父親の逮捕について発表していない。

 

 一体女子児童に何があったのだろうか。

 

 関係者によると、A子さんが転落死したのは4月14日の早朝。マンションの前には、警察官が集まっていた。別の棟に住むある男性は「警察官が来ていたのはわかりましたが、特に説明や聞き込みがあるわけではなく、何が起きたか分からなかった」という。

A子さんが落下したマンション

A子さんが落下したマンション© 文春オンライン

「数日後に女子児童が転落し、亡くなったと近所の人から聞きましたが、なぜ転落したのかはわからない」と続けた。

1週間たっても報道は一切なかった

 A子さんの転落について、本人を知る関係者から筆者に情報が寄せられたのは死亡から約1週間後のことだった。その時点で、報道などは一切なかった。

 

 警察関係者はこう述べる。

「亡くなったA子さんは、父親から性的虐待を受けていた可能性が高いと見られています。A子さんは虐待について仲のいい友人1人に相談していましたが、まだその友人はA子さんの死を知らされていません。A子さんの事件が公表されていないのは、その友人へのショックを避けるため、という判断のようです」

父親の性的虐待を苦に小学6年生女子が自殺? 警察発表は無し、学校は相談を受けていたが…

父親の性的虐待を苦に小学6年生女子が自殺? 警察発表は無し、学校は相談を受けていたが…© 文春オンライン 提供

A子さんが落下したマンション

 

 関係者によれば「身内の事件とはっきりする場合、発表しないこともあります。特に、性的な問題が絡んでいると、発表することが少ない。子どもとなるとなおさらです」と話す。

「A子さんは自殺する前、友人や兄には相談をしていたようです。A子さんは学校で配布されたタブレット端末のメッセージ機能を使って、学校宛に『父親から性的虐待を受けている』という内容のメッセージを送っていた痕跡もあります。最後のメッセージが届いたのは自殺同日の14日ですが、日曜日なので学校はメッセージを見ていない可能性もあります」(関係者)

 

 現時点で、警視庁からの発表はない。今年の4月には、都内の児童が自殺したとの発表はなく、新聞記事もない。しかし厚生労働省の「地域における自殺の基礎資料」によると、4月には同区で20歳未満が「1人」自殺したことになっている。職業としては「学生・生徒」である。 

学校宛に「父親から性的虐待を受けている」という内容のメッセージを…

 該当区の教育委員会に問い合わせをすると、「女子児童が転落死した案件については、日時を含め、公に伝えるべき内容がなく、特にお答えすることはありません」との回答だった。

 

 東京都教育委員会は「一般論として、公立の小中学校で自殺が起きた場合は、市区町村の教育委員会を通じて情報が入ります。都教委としては、市区町村教委に求めに応じて指導・助言をしたり、心理職の派遣をすることがあります」としながらも、個別の案件については回答しなかった。

「虐待された子どもは、自殺関連行動のリスクが増加する」

 性被害について詳しい、上智大学の齋藤梓准教授(臨床心理学)は、性被害がある場合、自殺リスクが高まると指摘する。

「虐待された子どもは、自殺関連行動のリスクが増加するという研究があります。男女問わず、一度でも被害経験のある人はリスクが高まる。2012年の調査では、大学生の場合、性被害経験がある女性は、ない人に比べて自殺関連のリスクが4.7倍、男性では9.76倍になるというデータもあります」

 

 また、自殺予防教育について詳しい中央大学客員研究員の高橋聡美さんも、性的な虐待と自殺の相関についてこう話す。

「日本も含めて世界では男性の自殺者が多い国がほとんどですが、男女が逆転している国もあります。それは、人身売買や児童婚など性的搾取が激しい国が多いです。性的な被害は、女子が自殺に追い込まれる要因の1つと見て良いと思います。家庭内における性的な課題に関しては、家庭外からのサポートが必要だと思います。少なくとも、匿名でのLINE相談ではなく、実名で相談できる場が必要だと思います」

 

 再発防止の観点から、次のように指摘する。

「被害者のプライバシーや友人への配慮をしつつも、再発防止のためにどのように情報共有するのか、この点を考えないといけません。関係部署でシェアし、同じようなことがあった場合、未然に防げるようにしていくことも必要です」

(渋井 哲也)