〈人の目なんか気にしないで、思うとおりに暮らしていればいいのさ〉
ようやく春が見えてきたかな
でも森のみんなが息を潜めて一日千秋の思いで待っているんだから
僕が知ったようなことを言うのはやめとくよ
そう、森のみんなに悪く思われたくはないものね
人間社会でも、我知らぬところで陰口を叩かれるのは嫌なものだ
悪意や敵意を背後に養っているとしたら、それはそれで我が身に迫る静かなる危機には違いない
人間は自然と違って、自我というものにそれぞれが囚われているから、不特定多数の個々が何を考えているかなんて、皆目分かるはずもない
厄介な話しさ
人間は目に見えるもの以外に、それぞれの抱える因果律に支配されているからね
雨や風や嵐のようには対処できるはずもないのさ
いや、それだけじゃない。特定の人間であっても、煩悩や本能やDNAや性格や、環境や経験や教養や・・あらゆるものに支配されていながら、尚、「私」という唯一絶対の独立した存在を疑わない強固な自我の殻の中に棲む住人だよ
僕は人を慈しみたいとは思っているけど
人と人のあいだにある絶望的な距離もまた感じるんだよ
僕自身も人間だからね、よく分かるよ
背後に潜在する人間の悪意や敵意が、差し迫る静かなる危機としてあったとしても、それに対して何ができるのか、何もできやしない。必要以上に警戒したり過敏に反応するだけ無駄というものだ
また、霊性的にはおそらくかなり低次元なそれらに、関わり合う意味があるとも思えない
僕は寡黙な森のみんなには、心底謙虚でありたいと思っているけど、人間社会におけるそういった自衛のための同調をしようとは思わない
人間って言うのは、これはこれで個人も社会も、なかなか大変だ
だから釈迦やイエスやムハンマドに任せるのが一番いいんだろうね
ムーミン
とにかく、人の目なんか気にしないで
自分らしく、楽しく、思うように、暮らしていけばいいのさ
春は、もうすぐだぞ