素人、特に高齢者の俳句マニアの私にとって伊藤園の俳句大会は見逃せないイベントなんである。

 

平成の演歌、歌謡曲の歌詞を読み漁ったことがあるのたが、

お〜いお茶の作品からヒントを得ている、

或いは盗用の疑いのあるくだりをいくつも見つけた。

 

プロ作詞家の使い古した脳みそに明かりを灯す程、

お〜いお茶の俳句大会は、秀逸でハッとするほど純粋なものが紛れ込む凄い大会なのである。

 

そんな大会の第25回で佳作特別賞を受けた俳句を紹介したい。

 

携帯電話の先はモンゴル鰯雲

  

栃木県 橘川芳子 78歳

 

 

この突然大ナマズが打ち上げられた感じ。

小舟に横たわる大ナマズに手も足も出ない。

 

区切り場所が分からない。

内容が入ってこない。

どうした芳子。おい審査員。

 

わからないまま10年近く過ぎたわけだが、

最近になって「携帯電話」をケータイと略せばいいことを知った。

 

ケータイの 先はモンゴル 鰯雲

 

携帯電話をケータイと略すことを前提に詠む78歳。

 

頭が柔らかいし洒落てるし、なんつー洗練された俳句を詠むおばあなんだろうと呆然とした。

 

たった17文字でここまでリアルに壮大なモンゴルを想像させる技術は並大抵じゃない。

 

「携帯電話」と発信元の「日本」という、2つの超コンパクトなものにナチュラルに紐づけて、モンゴルの壮大さへ導いているのが凄い。

 

そして鰯雲。

空を最も大きく感じさせる雲は鰯雲だろう。

 

うろこ雲ではなく鰯雲としたのもいい。

「モンゴル」というワードを受け止めるだけの力強さがある。

なのに侘び寂びもあり、余韻が凄い。

 

芳子。78歳。何者だ。

 

モンゴル騒動は10年以上前だから、今生きていれば90近いわけだ。

橘川芳子さんには必ず他の作品があるはずだと思い調べてみた。

 

令和3年に栃木県の現代俳句協会の特選賞を受けている。

少なくとも令和3年までしっかりと俳句を詠んでいたことが嬉しい。

 

 

椿落つ 八嶋 八つ橋 八つ祠

 

パワーアップしとる。

かっこいい。

 

ついでに芳子さんが72歳の時に詠んだものも出てきた。

 

銀杏散るアルファベットが散るように

 

ロックだ。

瑞々しい。

 

いずれも17文字で絵を描ききっているのが凄い。

 

 

芳子にGoProをくくり付けて、どんな散歩をするか見てみたいものだ。

落ち葉や無人のベンチをじっと眺めていたりするのだろうか。

 

間違っても芳子は、緑色のチャーハンを見て、

 

「中華料理ってアートですよね…」

 

などとぬかすことはないだろう。

 

橘川芳子さん。

素晴らしい俳人。

元気でいますように。