過日リニューアルした近所の古書店へと行く用事があったので行ってきた。
店頭の均一棚から数冊を手にして店内へと入ると書棚の影から元気そうな主人が顔をのぞかせて笑いかけるのへ挨拶を交わす。

頼んでいた現代俳句大系を引き取るために寄ったのだが、いきなり店頭の歳時記ふうの物が良い大冊に掴まってしまった。

そして中公文庫から出ていたティク・ナット・ハンの「ビーイング・ピース/ほほえみが人を動かす」が手に吸いついてきて離れないので買うこととする。平和と非暴力の使徒としてキング牧師にもその影響を与えたというティク・ナット・ハン。

そのほかSFに関する新書、それとシモーヌ・ヴェイユに関する新書版と、昭和6年刊行有朋堂書店の石川雅望集、これは以前から欲しかった一冊である。石川雅望は江戸後期の詩人・狂歌師・戯作者・そして国学者という人物であり、石川の「しみのすみか物語」という述作を前々から読んでみたかったのである。

店内へとイン、すぐ見返りの棚の目線の高さにカルペンティエール「バロック協奏曲」が安めに値付けされいたので掬いあげる。カルペンティエールの安値を指摘すると主人が近寄ってきて話をはじめた。














今日の話のなかの何冊か。










「いま、原石鼎、読んでるよ」
「小島信夫の」
「そう、小島の評伝」
「あ、それ一時期値上がりしてたやつだね、いいよね小島信夫。ずいぶんと前にせどりして所持してたのだけど、そのころ懇意にしていたホン屋さんに頼まれて当時4000円で手放したことあったな」
「そのなかにある句でね、『秋風や模様のちがふ皿ふたつ』ってのがあるのね、それがさ、その句、どうやらただ皿を詠んだだけのようだけども実はダブルイメージの句で、皿を女性に重ねてるらしいのだよ」
「うん、いまその句を聞いた瞬間にそう思ったよ、骨董とも女性ともどちらにも受け取れるねそれは」
「うん、なんだかイメージが広がるよね、俺の師匠がさ、もう死んじゃった師匠だけどそんなこと言ってたからさ」
「読んだら売ってよ、小島信夫読みたくなってきたよ」
「うん、いいよ。でもこの話、まだ続きがあってさ」


その話の続きを聞いてたら是非とも読みたくなってしまった。

何日かしたらその小島信夫の書いた原石鼎はわが家の敷居を跨ぐこととなろう。










或る日の帰り道のハクチョウゲ
















 夕映のひかりほのかや白丁花