昨日は東京は気温もぐんと上がり、冬物あばよと言いたくなるよな春を跨いで夏へとひとっ跳びしそうなほどの寒さゆるんだ一日となった。
今日も起きぬけから上かけなしで過ごせそうだと半袖サンダルばきにて外へとくり出し、庭の花に水をあげたりしてきた。







昼前の空を見あげて一枚








東から西へと消えゆく飛行機雲













 さてさて平生、仕事の帰り道にほんの少しだけ遠まわりをして近所の古本屋へと寄り道をするのが、たとえ体が疲れ果ててぐったりとしているときでも身中にうごめく蟲を静めるにはこれ一番の特効薬たることは、長年の経験から自分でよくわかっている。

何冊かを手にしてさらに棚を眺めていると「こんばんは」と本をかかえて顎でおさえながら品出しにきた店員さんに挨拶をされたので「こんばんは」と返して顎から下の本のタイトルを瞬時にチェックする。

アポリネールと殿山泰司と河東碧梧桐を手のひらに収めて会計に向かうとカウンターに小銭をならべてスタンバってる先客、年配の女性が見え、しかしながらほかの店員さんはどうやら不在らしい空気であるため、品出し中の店員さんを呼びにいこうと通路を戻ると空の手をむすんでひらいてヒラヒラしながら来たので無言で目配せ合図する。

店員さんがレジへ入るタイミングで年配女性は体を入れてぼくを阻みながら店員さんとぼくしかいないそのふたりの聴衆に聞こえよがしに「ワタシの方が先よっ」と「スペイン語翻訳講座・CD付」というのをズイと差し出し「このCD、ダイジョウブよね…」と確認をうながす。


…別にアナタを追い越してまで先に会計を済ませようというコンタンはさらさらないですよただアナタがジレてレジ前を落ち着きなく動きまわって店内の波動がよろしくなかったから呼びに行ったまでのことですと頭のなかで音声に変換しながらCD付スペイン語翻訳講座の本が真っ白なレジ袋にすっぼりと収まるまでやれやれこの人のヤクホンしたものだけは耳にも目にも声にもしたくはねえな思ったりもしたある日の帰り道。







ぼくも社会の荒波にもまれてるうちに、おんとし六十にもなりさらしたし、わが祖国ニッポンは、あと五十年は、革命の嵐も吹きそうもないフシダラな国家であると、ほぼ見当がついたから、地球なんか破裂しようと霧散しようと、どうでもええねやけど、とにもかくにも、生きとる間は働かなければならんのじゃけえ、これが面白くねえよな。ぼくは遊ぶために生まれてきたつもりなのに働いてばかりいる。つまらねえ。生きるのをやめればいいんだけと、ぼくは臆病だから切腹だとか首吊りだとかタンカンには実行でけへんし——-

(ONE・DAY より抜粋)













殿山泰司ベストエッセイ
大庭萱朗・編
ちくま文庫
2018年10月10日 第1刷発行





酒とジャズとミステリとそして自由を愛したニッポン映画界の名バイプレイヤー殿山泰司、通称「三文役者」。

そんな殿山泰司の自由闊達なエッセイの精髄を収録。













たまにはスカっとスカのビートで
ワン・ステップ・ビヨンド、ってな感じでも!

















(音源お借りしました)