朝からまるで霧がたちこめているような春の空を見あげてしばし佇む。













過日親しい友と話をしていて池澤夏樹の名前が出てきたので久しぶりに手元にある詩集を繙いてみたくなった。















湧きあがるのが己(おれ)だ
空充すのが己だ
天の境
万象以前
ここに かしこに
わたる霧々
混じりあい ほの光れども
己だけがある

どこか
時なく
ところなく闇の冷々

押しあい くぐもる
広大無辺
ただに
己だけが湧く

あるいは
むらむらと
熱い雲々
八方から寄せよう
また己

くさぐさ並び立って
よばわろうとも
みな己の声
聞く耳朶もそよぐ風

湧く
時の外
たゆたう
満天
行きに行く処
ありとあるは

〝満天の感情 序〟 より













池澤夏樹詩集成
書肆山田
1996年1月31日初版第1刷













(音源/拝借)






本書の付録として池澤夏樹と須賀敦子の対談が収録されており、詩や文章における創作者としてのおふたりの思いに耳をかたむけた。

ギリシャの詩人カヴァフィスの翻訳をした池澤夏樹、イタリアの詩人ウンベルト・サバを訳した須賀敦子のふたり。















霧のような雲はたえまなく動いている。その雲をかき分けてさらなる高みにある、あの空の向こうへ浮き上がりたいとぼんやりとした思いをいだく。太陽の気配がさらに濃くなってはきたのだが、しかしながら今のところはまだ薄曇りの空に包まれている。