音拝借







真昼は雲ひとつない空になった日曜日。





過日、よく行く古書店の外の棚をあてどなくみていると「天田愚庵」なる名が目に飛び込んできて、愚庵といやあ山本長五郎通称清水次郎長の養子の名だったよな、ううん、愚庵は確か『東海遊侠伝』という次郎長伝の種本の著者…それが『明治歌人集』とな、どれどれ、と手に取り開いてみたらばまごうことなき次郎長の養子の愚庵の和歌を収めた集だったので購入する。








明治歌人集

明治文学全集64

筑摩書房

昭和43年9月25日第1刷発行


天田愚庵の他に前田夕暮、土岐哀果、川田順などを所収する。



愚庵の歌をいくつか。


秋風に尾花蹈分け我來れは墨染の袖に懸るしら露 

(巡禮日記 より)


鳴神の音にも增してかしこきは鳴門の海の渦潮の音


子規なれも後の世たのめはか阿彌陀か峯に來ては鳴くなる


人皆はもかさかゆかさ痒くしてかゝれぬ靴の下心かも


薙刀の空にしく薙く風車沈みて薙くは水車かも 

(以上 愚庵和歌 より)


どうやら天田愚庵、正岡子規と知り合いだったらしい。






また先週は、なじみのない町の古書店へちょいと頭を入れたらば、目線の位置の棚に「ワイルド全詩」日夏耿之介訳、があったので、ダブりとは承知しつつも購入する。
ワイルドと日夏で一石二鳥と独りごち、一冊だけでそそくさと店を出た。








いや、われら歩(ゆ)かう、火から火へと
煩悩の苦しみから致死の悦びへと…
望みもなく生存(いきな)がらへるにはあまりに青春(わか)いわたくしだ、
君とてもあまりに若い。この夏の夜をかの疎懶(そらん)な疑義を質(ただ)しては
浪費(すご)し得まい。老翁に預言者と神託とを請ひ求めたが
なんの答へもなかつたなんど。

感覚は知能よりも善である甘美である。
また智慧は小児なき家督である。
情熱の脈搏は…青春第一の火の白熱は…
哲人の胸に秘めたる箴言にも値ひするのだ。
死滅した哲学で爾(おんみ)が霊魂を虐(いぢ)めるな
われらくちづけの唇(くち)、恋する心、眺めみむ双眼をも持たない身で…



【パンテア】 より

ワイルド全詩
オスカー・ワイルド
日夏耿之介 訳
講談社文芸文庫
1995年12月10日第1刷発行

大世紀末の詩人、唯美主義、芸術至上主義を唱えたオスカー・ワイルドの全詩を秀麗な訳語によって全訳した美の司祭たる黄眠草堂聴雪盧主人、日夏耿之介。


訳詩ではない日夏耿之介の詩も読みたくなってきた。



夕刻からまた微熱が出始めていままた上がり始めている。


体調不良が長引いている。