過ぎてみれば | 浴室

過ぎてみれば

それはとても簡単で、唐突なことだった

引金をひいたのは、わたし

そのきっかけは色々なことが重なったからであった

相変わらずタイミングが良い彼

緊張するとか、そういう気持ちは無くて、覚悟を決めた瞬間に口に出したその言葉以降、わたしは驚くほど穏やかな気持ちだった

むしろ彼のほうが焦っていて‘その場所’すら覚束ないその態度に、誘導するわたしすらいて、なぜだかそんな彼が愛しく思えた

彼がわたしの体の中に入ってきた瞬間の気持ちを今のわたしは覚えていない

ただ別に後悔する気持ちはなくて、その行為の後も優しい彼に、むしろ行為の後のわたしに関わる全ての態度ほうが優しいかもしれない彼に、安心と何らかしらの確信を得た気がする

これでわたしが対価の絡まないセックスをしたのは彼が二人目になった

これからわたしは二人の男に代わる代わる抱かれる女になる、どちらかに決める女になるつもりはない

腹を括ってこれからもお仕事をし続けるわたしでいることを、今わたしはここで誓う

‘なぜそんなことができるのか’
ではない
‘それをわたしが選んだからする’
のである

これからわたしはあなたに、とびきり甘い極上の夢と、狂いそうに辛い地獄とを実は両方与え続ける、そんな女になる

どちらを手放したら後悔するのかは、もちろん‥‥‥‥ごめんね