愛しているよ
「愛しているよ、家に持って返ってはいけないけれど」
情事の後、ホテルの玄関で靴を履きながら、相手が言った
「持って返らないほうが良いですよ、わたし、手間がかかりますから」
わたしはなるべく、軽く、笑いながら言った、その後、何個か冗談も交えながら
わたしの今の愛人は、一人で、一年間くらい続いている人で既婚者
ああ、正確に言うと、二人かな、でももう一人は会うつもりはないけれど
なんでこんなに続いたのか判らないし、お互い他人に関心があまりないタイプだけどなんとなく続いている
波長があうのか、なんなのか、判らないけれども、わたしは彼のことを今までのどの愛人とも
違う感情で好きだなと思う
相手が大切にしてくれているのも判るし、わたしも何か、してあげたいと思う
二年間位続いている、愛人とかそんな話良く聞いて、そんな話はないだろうと考えていたけれども
でも、そんなこともあるんだろうなと今ならそう感じている
相手はわたしの本名も知らないし、わたしは相手のフルネームをしらない
相手はわたしが普段どんなことをやっているのか、知らないし
わたしも相手が家庭でどんな顔をして奥さんを抱いているのか、もしくは抱いていないのか
そんなこと、何も知らない
でも人と向き合うのが嫌いで、適切な距離を楽しみながら、所謂「恋愛ごっこ」をしたいわたしは
そんな相手が合っているのかもしれない
美味しくて、楽しくて、お金ももらえて、こんな愛人、わたしは続けていきたいと思う
もし相手もわたしもお互い今以上の好意を持ったとしても、わたしは相手の家庭を壊すつもりは毛頭無いし
この距離だから、お互い好意を持っていられるんだと思う
もう何人の愛人という仕事をしたのかも思い出せないし、何をしたのかもわからないけれど
でも多分、あなたのことはこの先、覚えていると思うよ