V・S・ラマチャンドラン著『脳の中の幽霊』
(角川文庫)より、抜粋。

つねづね側頭葉は、とくに左のそれは、宗教的な体験と何らかの関連があるのではないかと疑っていた。医学生ならだれでも教わることだが、この部分に原発するてんかん発作のある患者は、発作のあいだに強い霊的体験をする場合があり、発作のないときや発作のあいだも、宗教的あるいは道徳的な問題にとりつかれるケースもときどきみられる。(中略)もし宗教の信者が、願望的思考と不滅を絶望する気持ちが一緒になったものにすぎないとしたら、側頭葉てんかんの患者が体験する宗教的な恍惚状態や、神が直接語りかけてきたという彼らの主張をどのように説明づけるのか。(中略)もちろん彼らは、総合失調症の人たちが体験するような幻覚や妄想にわずらわされているだけなのかもしれない。だがもしそうなら、どうしてその幻覚は、おもに側頭葉が関係する場合に起こるのだろうか。もっとわからないのは、なぜ特定のタイプ(神)の幻覚なのかということだ。なぜ豚や猿の幻覚ではないのだろう。