※②の続き
佐伯正明 先生の物語

まずは一式陸攻に乗り込み、縣吊されてる『桜花』に上空で乗り移り、房総半島突端の犬吠崎上空からの投下。そして着陸…の流れです。

「アッ、落とされた!――――」

一瞬そう思った。
グラリと大きく『K1』が傾いて、そのままスーッと急激に斜めに傾いて、下界へ向かって落ち始めた。ここで私は完全にアワを食ってしまった。

しまった!これは何とかしなければならない―
失速、墜落そして殉職―恐怖がさっと脳裏を走る。
つまり、事実はこうだったのだ。
推力を持たない『K1』は、落とされた直後には自らの重力で空中を水平姿勢で落ちて行くが、今度は東部のバラストの重みで自然に頭を下げ、滑空、飛行を始める。
この自然落下が止まるまでの数秒間か、十数秒間かの辛抱が必要だったのだ。
だが、この間の何と長かった事か!
 
私は過速のまま、無理矢理に地面へ気体をすりつけた。

ところが―私の思惑は見事に外れた。
腹ばいどころか、物凄いショックと共にバウンドして、また飛び上がった。
バルーニングではなくて、典型的な大ジャンプだった。
 
そこで50メートルほどの高さにハネ上げられ、格納庫の屋根をかすめて、再び地上へ接近した私の乗った『K1』は、場外の山へ突進した。
 
畑が見えて来る。
木と木の間に一軒の家があったのは、かすかながら覚えている。
私の記憶はここで途切れている。あとで聞くと、このとき私はすでに転覆していたのである。
(月刊『丸』より)

※④に続く