天声人語(朝日新聞4/21)

ホンダ、ソニーと紛らわしい「HONGDA」のオートバイや「SQNY」の乾電池が出回った国である。中国のコピー癖に今さら驚きはしないが、国の威信をかけたイベントまでとはニセモノ天国も半端じゃない
▼上海万博のPRソングが岡本真夜(まよ)さんのヒット曲にそっくりな件で、万博実行委が岡本さん側に「あの曲を使わせてほしい」と申し出た。遅すぎる依頼ながら、岡本さんは「とてもすてきなお話で光栄です」と応じたという
▼13年前の「そのままの君でいて」が、ほぼそのまま、なぜか中国の国家事業を盛り上げる運びとなった。先方は穏便にさばこうとしたのだろう。「盗作に抗議」「認めて謝罪」という手順をすっ飛ばした、お手軽にして珍妙な落着だ
▼この荒業、当方も冗談としては話していた。冗談を地で行く国である。例えは悪いが、万引きの犯人が「倍払うから許して」とひれ伏した図が浮かぶ。そして店側は「とてもすてきなお話」と▼〈もっと自由に/もっと素直に/強がらないで歩いてゆこう〉という岡本さんの詞に導かれたか、体面を重んじる国にしてはビジネス本位の、素早い対応といえる。万博まで10日あまり。さすがに正面から争ったり、曲を作り直したりする余裕はなかったらしい
▼盗作騒ぎは、中国のインターネットで「国の恥だ」と火がついた。岡本さんはかの国でも知られており、はやりものに疎い当局が笑いものになった。ネットをあれこれ規制したところで、人の口に戸は立てられない。「OKANOTO」が通るはずもない。

▼これ及びGoogleを機会に知的資産に対する考え方が、中国で変われば良いのだが!