電車の見える診療所から(第15回) | 横山小児科医院のブログ

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  僕の診療所は土足ですから、子どもたちには外からの延長です。
ずいぶん前のことですが、診察室にスキップしながら入ってくる女の子がいました。いつも笑顔が素敵で仕草がアルプスの少女ハイジを彷彿とさせるので、ハイ ジと呼んでおりました。そのハイジが幼稚園の頃だったと思いますが筋ジストロフィーという難病を発症し、まさか、あの子がと愕然としたものです。この病気 はほとんどが男子で女子では稀なので、なおさら「なんで!」って思いでした。徐々に全身の筋力が低下していく筋肉の病気で今のところ治療法はありません。

 ハイジは福岡市立こども病院に通っていましたが車椅子での生活を余儀なくされ寝返りも自力では出来なくなっていたとのことでした。それでも県立高校を ちゃんと卒業していて、久しぶりに出会ったのは彼女が二十歳過ぎだったと思いますが、数人の友だちに囲まれて電車に乗っている時でした。友だちが車椅子を 押してくれて福岡に遊びに行く途中だったようで、ひと目で分りました。幼い頃のハイジとまったく変わらぬ笑顔だったのです。

 また歳月がながれ、今春、一枚のハガキを受け取りました。
【GOOD TIME `08 パーチメントクラフト作品展のご案内】この案内状の余白に自筆で「御無沙汰しております。成長したハイジ(笑)をよかったら見にいらして下さい」 とありました。僕はパーチメントクラフトて何か知らなかったのですが、特殊な紙に彩色して針で小さな穴を開け、これまた小さなハサミで切り抜いて作品を仕 上げるものです。初めて見て作品の素晴しさ、作業の細かさにビックリしました。お弟子さんにも指導しているそうで、僕にもやり方を見せてくれましたが、こ りゃまた根気の要る仕事やねぇと感心しきり。筋ジストロフィーは前腕から手指にかけては長く筋力が保たれるので、この作業がなんとか可能なのでしょうが、 お見事というほかありません。海外からも注文がくるそうです。お母さんの話では向学心に燃えインターネットを使ってのサイバー大学で勉強も猛烈にやってい る由、睡眠時間3時間足らずということもしばしばだそうです。ただし椅子に座っていて首が後ろに倒れると自力で戻せなくなり窒息しそうになるそうで、お母 さんの苦労も並大抵ではないでしょう。発病以来、本人はもとよりご家族のご苦労は大変なものだと思います。とりわけお母さんはハイジと一心同体となって頑 張ってこられました。でもハイジもお母さんも明るく前向きです。僕はこの母子には「生きる」という意味をしっかり教えられた気がします。

ありがとう。